名誉毀損と解雇権濫用

裁判所 民事

弁護士石井です。

私立大学が、准教授に対して、懲戒解雇したことが解雇権濫用と認定された裁判例の紹介です。
東京高裁平成29年9月7日判決です。

准教授が、2ちゃんねるの掲示板に同僚の教員を批判し、名誉毀損等の違法な投稿をしたことから、学校側が懲戒解雇。
これに対して、准教授が、懲戒事由に該当する事実はない、仮にあっても、懲戒権の濫用だから解雇無効と主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求、判決確定までの賃金支払請求、解雇が不法行為だとして慰謝料100万円の請求をしたというケースです。

 

大学

一審では、地位の確認請求と賃金支払請求について認容、慰謝料請求は棄却。
大学側のみが控訴。

高裁は、
懲戒事由にはあたる
懲戒解雇は、准教授の行為とは均衡を失する、重すぎ、客観的合理的理由を欠いて社会通念上相当とは認められず、懲戒権の濫用として、解雇は無効、控訴は棄却としました。

このケースでは、懲戒事由があっても、いきなりの解雇はやりすぎだと判断されたわけですね。

懲戒解雇の有効性については、諸事情から考慮されるという曖昧な基準のため、裁判例を参考にする度合いが強いです。

本件の判決文で取り上げられていた事情は以下のようなものでした。

同じようなトラブルに遭っている人は、参考にしてみてください。

「本件投稿は,被控訴人が,本件大学名が付けられた電子掲示板において,同大学の准教授であるAについて,その論文に偽装やねつ造があったとか,これによりHPVワクチンの薬害が生じたとか,Aが刑事責任や民事責任を負う可能性があるのに逃げ隠れしているとかの事実を摘示するものであり,そのことが原因で,被控訴人は,Aから別件発信者情報開示請求訴訟や別件反訴が提起されるなどした。」
「被控訴人は,平成28年2月8日,人権委員会及び懲罰委員会において,本件意見書に基づき,本件投稿の経緯を説明した。(前提事実(8))本件懲罰委員会は,被控訴人に対し,平成28年2月15日午後5時までに退職願を提出すれば,これを受理するとして,自主退職を促した(本件退職勧奨)が,被控訴人は,期限までに自主退職をしなかった」

「そこで,控訴人は,平成28年2月16日,被控訴人の本件投稿が控訴人の就業規則4条(1)(学園の名誉を毀損し,学園及び職員としての信用を傷つけるような行為)及び同条(6)(学園の指示に反する行為)に該当し,就業規則31条(2)(第4条各号に掲げる行為があったとき)及び同条(9)(前各号に準ずる行為があったとき)の懲戒事由に該当するとして,被控訴人を本件懲戒解雇とした。」

「被控訴人は,平成22年11月に被控訴人に採用されて以降,本件投稿に至る平成27年3月までの約4年間,特に研究者としての研究業績が悪かったり,控訴人から,これまで懲戒処分や注意指導を受けたりしたことはなかった。(弁論の全趣旨)
また,被控訴人は,控訴人の本件大学薬学部薬学科の准教授として採用されたものであるところ,控訴人から本件懲戒解雇を受け,准教授としての身分を喪失すれば,他大学への転職は著しく困難となる。(弁論の全趣旨)
他方,本件大学の准教授であった被控訴人が,2ちゃんねるに投稿を繰り返し,同僚の准教授を実名で批判することは,学生に対する指導効果を低下させかねない行為であり,その運営に支障を生ずるおそれのある行為であるが,被控訴人の本件投稿によって,本件大学において学生に対する指導や運営等において,現に具体的な支障が生じていることを認めるに足りる証拠はない」

「本件投稿は,2ちゃんねるの匿名の電子掲示板になされたものであるところ,匿名の電子掲示板における書き込みは,無責任で根拠のない書き込みもしばしば見られる一方で,真実の書き込みがあることもあり(公知の事実),これらを踏まえて,一般の読者は,各書き込みの内容,その具体性の程度及び表現振りを考慮して,その信用性を判断しつつ,掲示板を閲覧しているものと解される。
そうすると,本件投稿の内容は,Aの実名が書かれているものの,「相当やばい」「捏造」「被害者多数」などといずれも抽象的な表現振りであり,その根拠を具体的に示すものではないから,一般の読者の普通の注意と読み方によれば,誹謗中傷の域を出ない投稿であると読解するものと認められる。このことは,Aの名誉感情の侵害の程度やハラスメントの程度を減ずるものではないが,Aの社会的評価の低下の程度を考える上では,斟酌されるべき事情に当たるということができる。
また,被控訴人は,遅くとも,平成28年2月8日の人権委員会及び懲罰委員会を開催するとの本件通知以後には,2ちゃんねるへの投稿を止めており,また,本件人権委員会において,謝罪する意思はないとしつつも,今後,2ちゃんねるへ投稿するつもりはないと述べている。」

「 以上の事情のうち,被控訴人に有利に斟酌されるべき事情に加えて,認定事実(8)によって認められる,①被控訴人は,控訴人から,これまで懲戒処分や注意指導を受けたことはなかったこと,②被控訴人は,控訴人から本件懲戒解雇を受け,准教授としての身分を喪失すれば,他大学への転職は著しく困難となること,③被控訴人の本件投稿によって,本件大学において学生に対する指導や運営等において,現に具体的な支障が生じていることを認めるに足りないことも,被控訴人に有利に斟酌されるべき事情に当たるというべきである。」

厚木の弁護士事務所 相模川法律事務所

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