損害賠償請求の相手方・テナント

裁判所 民事

弁護士石井です。

損害賠償請求の相手方に対する裁判例の紹介です。

大阪高等裁判所判決 平成28年10月13日。

 

事案

原告は、ホテル宿泊中にマッサージを受けた。
その際、マッサージ師の過失で、四肢不全麻痺の後遺障害を負った。
原告は、マッサージ師のほか、ホテルの経営会社に対しても、
主位的には、会社法9条類推適用で、
予備的には、使用者責任で損害賠償請求をしたという事案です。

 

会社法9条
「 自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。」

 

損害賠償請求が認められたとしても、相手方に資力がないと、実際には賠償額の回収ができません。
したがって、資力がある人を相手に含められるのであれば、含めた方が回収確率は上がります。
この話は、直接の加害者が逃げやすい詐欺などで著しく当てはまります。

この判決では、商号の使用も使用許諾もない事案で、会社法9条を類推適用して、被害者救済をはかりました。

マッサージ師の過失について、ホテル会社も損害賠償責任を負うという結論です。
原審も同内容で、控訴棄却という内容です。

マッサージ代金をホテルの部屋付の方法で払うことができた点などから、ホテルの経営会社側にも責任を認めたものです。

経営会社としては、テナントを入れるのであれば、営業主体がどこなのか明記しておかないと、このような責任を負うリスクがあります。
被害を負った側としては、回収率を高めるため、被告に誰を含めるのか検討する際に参考になる裁判例です。

 

代金の支払方法以外に、判決でとりあげられていた要素は次のとおりです。

 

「本件マッサージ店の賃借部分は、ホテルA内に同じくテナントとして入っていた他のマッサージ店と併せ、ホテルA内の本館のマッサージコーナーにあった。
マッサージコーナーは、2つの温浴施設(男湯、女湯)の中間に位置し、本件マッサージ店は、別紙1の「ホテルAイラストマップ」(甲5の3。以下「本件イラストマップ」という。)の「マッサージコーナー」と記載されている箇所の下半分(右下に伸びる連絡通路に面した側)であり、入口はトイレの向かい側にある。」

「上記のとおり、本件マッサージ店の入口には、屋号である「C」の看板ないし表記はなかった。」

「ホテルA館内には、顧客案内用の館内掲示板として、本件イラストマップが、エントランスその他複数箇所に設置されており、本件マッサージ店のある場所は「マッサージコーナー」と記載されているだけで、「C」の屋号の記載はなかった」

「館内エレベータ内の顧客案内用のタッチパネル形式の電子掲示板では、画面上のリラクゼーションという部分をタッチすると、本件マッサージ店のある場所が青色、白色、青色と点滅表示する仕組みとなっていたが、控訴人会社の施設との色分けなどはなされていなかった」

「館内には、「館内各コーナーのご案内」との掲示(甲5の5)がなされていたところ、上半分では、飲食店やカラオケ等の12箇所が紹介され、その中には「屋台コーナー」、「卓球コーナー」、「釣りコーナー」が含まれており、下半分には、上記12箇所の位置を記した案内図が記載されており、これらの中間に、「館内にはマッサージや飲食店等、たくさんのコーナーがございます。」との記載がある。上記案内図には、上記12箇所以外にも、売店その他の施設が記載されており、「ゲームコーナー」や「イベントコーナー」も記載されているが、ホテルAの直営店舗かテナントかの区別は表示されていない。」

「本件協定書第5条では、ホテル内における本件マッサージ店の営業上の店頭表示、宣伝等については、事前に控訴人会社の承認を受けなければならないことが定められていた。また、本件協定書第3条、第8条によれば、本件出店契約で定める店舗使用料は、固定額ではなく、総売上金の25%とされ、控訴人乙山は、毎日の売上金を控訴人会社にいったん預託し、控訴人会社から、毎月の店舗使用料を差し引かれた残額の支払を受けていた」

「以上の各事実によれば、本件マッサージ店の営業主体が、ホテルA以外であることを積極的に示す表示はなく、むしろ、ホテルAの1コーナーとしてホテルAが営業主体であるかのような誤認を利用客に生じさせる外観が存在していたものと認められる。」

「本件施術が行われた当時、本件マッサージ店の営業主体が控訴人会社であると誤認混同させる外観が存在したと認められる。そして、そのような外観の存在を基礎づける要素のうち、本件イラストマップ、本件案内図等の記載は、控訴人会社自身が作出したものであり、また、本件マッサージ店の看板、貼り紙等については、本件協定書の合意に基づいて、控訴人会社が控訴人乙山に是正を求めることができたものである。
したがって、控訴人会社は、上記外観を作出し、又はその作出に関与したものと評価することができるから、上記外観を信頼して本件マッサージ店を利用したことにより損害を被った者に対して、会社法9条の類推適用により、損害賠償責任を負うというべきである。」

 
厚木の弁護士事務所 相模川法律事務所

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