弁護士石井です。
スタッフからの情報で本屋大賞の存在を思い出し、受賞作品である『舟を編む』を読みました。
読んだ人がみんな「辞書、辞書」と言っていたので、不思議に思っていたら、
この小説って、辞書作りの話なんですね。
「そこから?」と突っ込まれそうなくらい、前提知識もなく読みましたが楽しめました。
辞書作りがこれほどの時間と労力がかかっているとは考えもしませんでしたね。
著者の三浦しをんさんと言えば、箱根駅伝をテーマにした感動的な小説『風が強く吹いている』が印象的です。
小説一冊のなかで、よくもまあ、10人のランナーを印象深くキャラ付けして感動作品に仕上げるなぁと感じたものです。
『舟を編む』もまた、キャラが立っている青春ものとして楽しめます。
また、辞書作りがテーマですので、日本語の重要性について考えさせられます。
ベストセラー『10年後に食える仕事、食えない仕事』という本の中で、弁護士は、10年後に食える仕事であると紹介されています。
この本は、主に、グローバル化による外国人との競争という視点で書かれたものです。
弁護士業界では、今後の仕事について悲観的な発言も多いのですが、他業界のグローバル化からすれば大したことはない。
弁護士は「ハイレベルな日本語」を使う。
「日本語の微妙なニュアンス理解が決定的に重要となる仕事」は日本人にしかできない
としており、裁判でもこのニュアンスが必要だと分析しています。
ロジックだけで結論が出る裁判も多いですが、微妙な日本語力が影響する事件もなかにはあります。
そういったシーンでは日本語の力が重要になってきます。
われわれも『舟を編む』の辞書作りのような、日本語に対するハイレベルなこだわりを持たないと、10年後には食えないかもしれません。
さらに『舟を編む』では、言葉が残る、ことがテーマにされています。
辞書は改訂されるものの、何年も使われるもの。
一度採用した言葉を、辞書から消す際には非常に神経を使うそう。
辞書に載った言葉は歴史に残るのです。
これはわれわれの仕事にも当てはまります。
裁判で主張した言葉は、ときに裁判官によって編集され、判決のなかに残ります。
その判決はときに何十年も残る。
判例を調べていて、判決文のなかの「弁護人の主張」「代理人の主張」に、力づけられることもあれば、
疑問を抱かされることもあります。
何十年後かに自分の言葉が調べられ、そこで誰かが反応する可能性があることを考えると、法廷で残す言葉にもそれなりの意識をする必要があります。
言葉について、最近意識していない人は、ぜひ読んでみてください。
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