弁護士石井です。
「自己破産をする人の平均月収」について、最近、報道を見かけました。

平均13.8万円などと報道されています。
ジン法律事務所弁護士法人に相談・依頼がある人たちでは、かなりの人がこれを上回っている印象です。
自己破産者の収入平均13.8万円という報道
元は、どこかの債務整理関係の記事のようですね。
記事内容では、2023年の発表によると、自己破産者(破産債務者)の平均月収は13万8038円でした。
前回の2020年調査では14万2021円でしたので、少し減少しているとのこと。
分布図を見ると、働いている層の収入自体が低い水準に集中していることがわかります。
長期的に見ても、破産者の収入水準は横ばいか微減傾向にあり、生活費の高騰に対して収入が追いついていない、余裕のない状態が続いていると指摘されています。
月収15万円未満の層は、全体の57.59%を占めているとのこと。過半数です。
データ元は日弁連調査
記事が参考にしている元データは、日本弁護士連合会(日弁連)が公表した「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」です。
弁護士になりたてのころ、消費者委員会でこの調査に参加したことがあります。3年に1回おこなわれている調査です。
今回のは、全国47都道府県、50の地方裁判所で、2022年に申し立てられ、確定した破産記録を無作為に抽出して分析したものです。
ネット上の適当なアンケートではなく、実際の裁判記録に基づいたデータではあります。
そこには確かに、分布の割合がグラフにされていました。

自己破産する人の過半数は、月収15万未満か・・・
自分は自己破産なんてできない、と誤解されそうな予感がします。
自己破産の要件
自己破産では、支払不能という要件があります。
支払不能なら、収入がそこそこ高くでも認められます。実際に、多くの自己破産相談を受けるなかでは、この平均値には違和感があります。
月収30万円であっても、扶養家族が多かったり、子の教育費がかかったりと支出が多かったり、そもそも債務額が多い場合には支払えないと判断されます。
収入が高ければ個人再生という選択肢もありますが、債権者の反対が予想されたり、将来の収入が不安定かも、という場合には、自己破産も可能です。
日弁連調査の分布割合
違和感があるので元データに当たってみると、今回の収入部分の調査対象としては、各地裁事件で20件、高等裁判所所在地の地裁事件では50件を対象としているようです。
全国の裁判所の事件を対象にしていますが、青森も20件、横浜も20件、札幌・東京が50件という件数の記録を調査したものです。
全体の事件数で調査対象数を決めているわけではなく、機械的に20件、50件という調査をしているものです。

旭川を見ると、20件中15件が月収15万未満となっています。
横浜を見ると、20件中10件は月収15万未満となっているものの、4件は30万円以上となっており、全国の割合よりも30万円以上の事件が多い分布になっています。
東京では、50件中21件が15万未満となっており、全国の割合とは大きく違います。
取得したデータの平均としては正しいのでしょうが、平均値の出し方としては適切なのでしょうかね。
まあ、報道を見て疑問に感じた人は、自分の地域の箇所を見てみると少しは実態がどうなのか参考になるのではないでしょうか。
少なくとも神奈川県や東京都では、報道の数字を上回る収入でも自己破産は認められていますので、数字を気にせず相談された方がよろしいかと。



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