弁護士石井です。
先日、タダで物を貸す際に注意すべき点という記事を書きました。
使用貸借契約の話です。
この使用貸借契約、契約書などしっかりしたものがなくても、相続など家族内の契約関係を認定する際に、よく裁判所が認める傾向にあります。
よくある相談内容は次のようなものです。
母が所有している建物に長男夫婦が同居。
次男や長女は別居している。
母が死亡。遺言なし。父は昔に死亡している。
このようなケースでは、法定相続分は、子3人がそれぞれ3分の1。
建物が相続により兄弟3人の共有状態にあるともいえます。
実際、法定相続分どおりの登記がされるケースもあります。
相続で、建物をどうやってわけるか話し合うことになります。
現金などの他の相続財産がない場合、よく問題になります。
長男は、そのまま家に住み続けたい。
次男・長女は家をお金に換えてもらいたい。売って3分の1にしたい。
こんな言い分がすれ違い、遺産分割の話し合いは長引きます。
そのうち、次男や長女は言い出します。
「この家、俺たちにも3分の1の持ち分があるんだから、兄貴、家賃ぶん払えよ」
このような主張が最高裁判所まで争われたケースがありますが、次男たちの言い分は認められませんでした。
なぜなら、長男は、母の生前、母から「タダで住んでいていい」という使用貸借を受けていたと裁判所が認めたからです。
明確な契約書などがなくても、一緒に同居していた親子、という点から、少なくとも遺産の話し合いがつくまでは、タダで住んでいていいというのが母の意思だっただろうよ、と裁判所が認めたのです。
うわべだけ見ると、建物所有者と同居していた方がトクなように見えますが、もちろん、高齢者と同居することには、ふつうは苦労が伴うでしょう。
相続の場合、通常程度の介護をしていても、取り分が増えるところまでなかなか認められません。
このような点とバランスを取ったとも感じますね。
「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。」(最判平成8年12月17日)
コメント