弁護士石井です。
以前、東京スカイツリーに行ったとき、あまりにも高すぎて、ここから飛び降りても、空を飛べちゃうんじゃないかと感じました。
あの展望室の窓が開いていたら、たぶん同じように感じ、実際に飛んじゃう人が出てくると思いますね。
「空を飛びたい」という楽観的な考えのもと、自殺者(と認定される人)が増えるでしょう。
自殺というのは、悲観的な感情のもと実行されるものだと考えていました。
私もネガティブな考えにとりつかれることはありますが、自殺を意識したことはありません。
ところが、この本を読んで、自殺に対する考え方が変わりました。
死んだはずの主人公が、甦り、家族の元に戻る。
日本全国で、そのような人が何人も現れるという小説です。
主人公の死因は自殺とされているのですが、甦った主人公は、
自分は自殺するような人間ではない、仕事もうまくいっていた時期に自殺するはずがない
と考え、自らの死因を探るという話です。
著者の平野啓一郎さんの『私とは何か』という本のなかで、
人間は目の前の人との関わり方によっていくつもの自分(分人)を持つという
考え方が紹介されています。
自分のなかに何人もの分人がいるという発想です。
今回の『空白を満たしなさい』で取り扱われる自殺は、この分人同士の問題。
自殺は、単に悲観的な感情で実行されるものだけではなく、
自分の中の、ある分人が他の分人を殺そうとして起きるのではないかという
考え方です。
つまり、自分同士の殺し合い。
その動機とは悲観とは限らず、愛であることもあるのです。
誰かを愛する分人が、それを守るために他の分人を攻撃する。
愛するが故に、自殺する。
こんな因果関係は、この本を読むまで想像もしていませんでした。
この考え方を受け入れるかどうかはともかく、万一、この考え方が自分の頭にも
出てきたら、自殺するかもしれない。
そう感じた一冊です。
自殺なんて考えたことがない、という人こそ、いざこの考えにとりつかれたときに、
逃れるためにも、押さえておきたい考え方です。
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