不完全主義の書評

生産性の幻 雑談

弁護士石井です。

『不完全主義:限りある人生を上手に過ごす方法』という本を読みました。

完璧主義に疲れ果てている現代人以外に、法律相談に来る人にも役立つ内容だと感じました。

なぜ「不完全主義」なのか

この本の冒頭で著者は強烈な現実を突きつけます。

人生をすっきり整理するのは、不可能である。やることリストを終わらせるのは単にものすごく困難なのではない。そもそも不可能なのだ。

私たちは長い間、効率化すれば、時間管理を極めれば、生産性を高めればいつか「すべてが片付く日」がやってくると信じてきました。しかし、それは幻想だったのです。

供給が無限にやってくる現代において、どんなに処理速度を上げても、処理すべき量もどんどん増えていく。結果として満足感が得られるどころか、疲労とストレスが増すばかりなのです。

生産性の幻

この現実を受け入れることから、真の自由が始まります。

うん、どうりで私のTodoリストがゼロにならないわけです。

解決しなくてもよい問題があることを受け入れる

法律相談を受けていると、すべての問題を完璧に解決したいと考える相談者の方が多くいらっしゃいます。しかし、現実の紛争でもすべてが解決されるのは稀でしょう。

何かを「しなくてはならない」という状況は、本人が思うほどに絶対的ではありません。

物理的に強制されていれば話は別だが、「これをしなくてはならない」というのは実のところ、「それをしなかった場合の代償を払いたくない」と言っているのと同じだ。

この視点は、法的紛争においても重要です。完璧な勝利を目指すあまり、時間とコストを無制限に投入するのではなく、適切な妥協点を見つけることが現実的な解決につながることが多いのです。

裁判で徹底的に争って自分の主張を認めてほしいという気持ちもわかるのですが、その代償は大きいかもしれませんし、そこで新たな問題が出てくることも多いです。

白黒思考からグレー思考へ

法律の世界では「権利」と「義務」が明確に定められているように見えますが、実際の紛争では白黒つけられない問題が山積しています。

完璧主義者は、すべてを白か黒かで判断しようとします。しかし、人生の大部分はグレーゾーンで成り立っています。このグレーを受け入れる力こそが、ストレスの少ない人生を送るための鍵なのです。

人間の感覚とか認知とか記憶というのは曖昧なものなので、対立する当事者の言い分が違うのも仕方がないのです。

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二分論より程度問題として考えた方が良い、というのはこの本でも書いたことです。

結構、似ている話が多いですよ。

1日3〜4時間の集中が最適解

この本では、さらに集中力に関する法則が取り上げられています。

いわゆる知的労働者にとって、1日3〜4時間の仕事がちょうどいいというルールだ。集中力を要する仕事を3〜4時間に絞ると、仕事がもっともよく進む。

この法則は2つの部分に分かれています。

  1. 毎日3〜4時間の時間を確保し、そのあいだは誰にも邪魔されないようにすること
  2. それ以外の時間は無理に計画的に過ごそうとせず、日々の雑多な混乱を受け入れること

1日を完璧にしようと考えても、どうせ邪魔が入るのですよ。電話とか。

混乱を受け入れる予定を組んでおいた方が、結果的に高い生産性をもたらしそうです。

「やったことリスト」で満足感を積み重ねる

現代人は「やるべきことリスト」に支配されがちですが、著者は逆のアプローチを提案します。

日々の生活レベルでも、生産性の負債の感覚に打ち勝つための有効な方法がある。「やったことリスト」を作るのだ。

これは単純ですが、完了したタスクをリストアップすることで、達成感を実感し、自己肯定感を高めることができるとのこと。

達成感を持ちたい人は試してみては。

現在に集中する力

本書で繰り返し強調されるのは「今、ここに生きる」ことの重要性です。

「自分はまだ本当の人生を生きていない」という感覚は避けるべきだ。今ここにある、これがあなた人生だ。これが最終的な本番なのだ。

法律相談においても、「この紛争が解決したら本当の人生が始まる」と考える方がいらっしゃいます。しかし、紛争中の今この瞬間も、紛らわない人生の一部なのです。

完璧な解決を待つのではなく、現在できることに集中することが重要です。

マルクス・アウレリウスの「ズームアウト」思考

ローマ皇帝マルクス・アウレリウスが『自省録』で勧めている心のエクササイズも参考になります。

不安や焦燥に呑まれそうなとき、自分のちっぽけな領域から意識を広げ、世界全体を視野に収めてみる。さらに効果的なのは、自分が生きている今この時を、悠久の時のなかに位置づけてみることだ。

トラブルで行き詰まったとき、この「ズームアウト」思考は非常に有効です。

マルクス

目の前のトラブルがすべてのように感じられても、第6宇宙のなかでは小さなことでしょう。

まとめ:不完全さの中にある豊かさ

『不完全主義』が教えてくれるのは、完璧を諦めることで得られる自由の価値です。

  • すべての問題を解決しようとしなくてよい
  • 白黒つけられないグレーゾーンを受け入れる
  • 限られた時間で集中し、それ以外は流れに身を任せる
  • 完了したことに目を向けて満足感を積み重ねる
  • 不確実性の中でも行動し続ける

法律相談に来る人の中には、トラブルに囚われすぎてしまっていると感じる人も多いです。

希望するように裁判とかはできるんだけど、そこでのストレス・時間を考えると、豊かな人生につながるのか疑問を持つこともあります。感情的になっているタイミングだと、なかなか他人の言うことを聞く気になれないものですので、さりげなくこの本を渡すのも良い方法ではないかと感じました。

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