弁護士石井です。
退職代行サービス企業が家宅捜索を受けたというニュースがありました。
報道では弁護士法違反とのこと。
このニュースへのネット上の意見だと、弁護士法違反の点が整理されていないように感じましたので、整理しておきます。
退職代行サービスでよく言われる弁護士法違反
退職代行サービス関係で、弁護士法違反じゃないかという議論は以前からありますし、裁判例も出ています。
これは、退職代行サービス自体が法的交渉を含む非弁行為に該当するのではないかという点です。
これに対し、今回の報道では、家宅捜索の対象となっているであろう弁護士法違反の問題は、弁護士を紹介する際に紹介料を受け取っているのではないかという点です。非弁提携などで問題になる点です。
弁護士法違反での家宅捜索というタイトルだけを見ると、以前からの退職代行自体の問題なのではないかと誤解して意見を出している人もいるようですが、報道されているのは紹介料受領という別の問題です。
こちらの弁護士法違反であれば、紹介料を支払っている弁護士も問題になります。報道では、法律事務所も家宅捜索を受けたとのこと。
いやー、家宅捜索は、経験したくないですね。

非弁行為の問題:退職代行自体
まず、退職代行サービスそのものが弁護士法違反になるかどうかという点から復習していきましょう。
弁護士でない者が法律事務を取り扱うことは、弁護士法72条で禁止されています。これを非弁行為といいます。
退職代行業者の中には、単に退職の意思を会社に伝えるだけでなく、残業代、退職金などに関する交渉を行うケースがあります。この場合、法的な交渉を含むため、非弁行為に該当するとも考えられます。
しかし、今回家宅捜索を受けた企業の主張によれば、問題のある法的紛争が生じた場合は、弁護士に引き継いでいるという形をとっているとのこと。そうであれば、単なる事実通知であり、非弁行為には当たらないという立場を取っているわけです。
紹介料の問題:弁護士との金銭授受
では、家宅捜索の理由のほう。
退職代行業者が弁護士に顧客を紹介する際に、紹介料を受け取っているのではないかという点です。
弁護士法は明確に、弁護士による紹介料の支払いを禁止しています。しかし、紹介料という名目以外の支払いが行われることが想定されます。
例えば、紹介料ではなく「コンサルティング費用」や「情報提供料」といった別の名目で支払いが行われたとしても、その実態が顧客紹介に対する対価であれば、実質的には紹介料と判断される可能性があります。
過去の懲戒事件から学ぶ実質判断の危険性
この問題を理解する上で、過去の懲戒事件が参考になります。
以前、過払い金返還請求に関する事件で、弁護士側が司法書士事務所にお金を支払っていたとして懲戒処分となったケースがありました。弁護士法人側は、この支払いは紹介料ではなく実態も別と主張していましたが、弁護士会は、その実態が顧客紹介に対する対価であるとして処分。
弁護士法人はこの懲戒処分に対して争いを続け、最高裁まで上告しましたが、結局のところ懲戒処分は覆らなかったそう。
つまり、名目がどうであれ、実質的に顧客紹介の対価と判断されれば、弁護士法違反とされ懲戒処分を受けるリスクが高いものなのです。
今回の退職代行サービス問題でも、何らかの金銭支払がされていれば、紹介料かどうかの調査がされることになります。
実質的に事件の紹介料を支払ったとなれば、その弁護士側も懲戒処分を受ける対象になり得るということです。
「別名目」の落とし穴
この種の構造で、紹介料という名目を避けるために別の名目を使おうとしても、実態が紹介料だと弁護士会から言われてしまうリスクがあります。
例えば、紹介を受けた顧客に対する成功報酬の一部を退職代行業者に支払うといった形をとったとしても、その実態が顧客紹介に対する対価である限り、実質的には紹介料と判断されるリスクがあります。
このような形での支払いは、実は結構リスキーなのです。弁護士は紹介を受けた顧客から報酬を得ることで利益が出るわけですが、その利益の一部を紹介元に返す行為は、弁護士法の趣旨である「弁護士の独立性」と「依頼者との関係の透明性」を損なうものとして評価されます。
退職代行事件における紹介料
今回は、まだ家宅捜索を受けたという報道だけですので、実態がどうかは不明です。
東京弁護士会も、捜査を見守るという緩やかなコメントです。

個人的には、退職代行関連の事件で紹介料のような対価を支払ってまで事件を受けたいと思うのか疑問があります。
未払残業代があるとしても、過払い金と比較すればそこまで高額にならない気がしますし、パワハラとかの個別問題の損害賠償等だと、労力がかかる部類の事件のような気が・・・。
弁護士側としても、そんなに利益が出るように思えず、紹介料まで支払って受任したいかね、と感じてしまいます。
いや、これは私が気づいていないだけなのでしょうか。
今後の業界への影響
この事件がどのような結論に至るかは、今後の捜査次第ですが、紹介料の支払が問題点だとすれば、紹介弁護士から何らの支払を受けていない同種サービスへの影響は少ないでしょう。
退職代行サービスの利用に関する個人的意見は、上記記事に書いたとおり、事実の通知にコストをかけたいかという判断かと思います。


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