ベッカム様がやってくる

弁護士の香崎です。

2002年、サッカーW杯の日韓大会が行われました。この大会で、一人の
サッカー選手が日本中を魅了しました。イングランドのデイビッド・ベッカム。
「ベッカム様」と騒ぐご婦人が日本中にあふれました。

さて、W杯は終わり、その興奮もさめやらぬある日のことでした。ある会社で、
別の事業所から独身の男性Aさんが転勤で来ることになりました。

「どんな人かしら」

女性陣の間で軽く話題になっていたところ、Bさん(女性)が以前に会議でその
男性に会ったことがあるということでした。

今度来る人、どんな人? こう訊かれて、Bさんは答えました。

「そうねえ、ベッカムに似てるかな。」

「えー!! ベッカムに似ている!?」

こんど来るAさんはベッカムに似ている。この噂はたちまち社内の女性陣の
間を駆け巡りました。

さて、数日の後、Aさんが着任し、各課にあいさつ回りをしました。
女性陣はみんなわくわくしながら待っていましたが、現れたAさんを見て固まり
ました。

・・・どこが・・・ベッカム・・・?

Aさんは、普通の日本人で、どこにもベッカムらしきところはありませんでした。

たちまちBさんに苦情が殺到しました。

「ちょっと、私、露骨にがっかりした顔しちゃったわよ!どうしてくれるの!!」
「私なんか、下向いて笑いをこらえるのに必死だったわよ! 変な人と思われた
わよ!! どうしてくれるの!!」
「一体、Aさんのどこがベッカムなのよ!!」

Bさんは弱々しく答えました。

「身長が、ベッカムくらい・・・。」

なぜBさんが、ベッカムに似ているなどという妄言を吐いたのか、いまだに謎です。

さて、このドタバタ喜劇の後、Aさんが「俺はBさんのせいで評判を落とした。B
さんに損害賠償請求をしたい。」と思ったら、それは可能でしょうか。

他人の行為(言動)により名誉を害された場合は、名誉棄損罪(刑法230条)
による処罰の可能性があるほか、民事では不法行為に基づく損害賠償請求

(民法709条)などが考えられます。
不法行為に基づく損害賠償請求の場合、名誉が害されたというためには、その人
に対する客観的な社会的評価が低下した、と言えることが必要です。

今回は、普通の人Aさんが、Bさんの妄言により一度「ベッカム似のAさん」に
評価が上がり(?)、本人の登場によりまたもとのAさんに戻っただけで、Aさん
のもともとの客観的な社会的評価が低下したとまでは言えないと思うので、名誉

が害されたとまではいえないでしょう。よって、無理でしょう。なお、請求するにし
ても、加害者と損害を知ってから3年経つと行使できなくなることにも注意が必要
です(民法724条)。

以上、今回は民法709条の講義でした。

ちなみに私は昔、西武ライオンズにいた郭泰源という台湾人投手に似ていると言

われていました。初対面の人に「どっかで見た顔だなあ」と言われた時、「西武の
郭泰源に似てるって言われます。」というと、「あーっ、そうか!!」と、瞬時に納得

の上大爆笑されることしばしばでした。

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