辛党

 「クジラ刺しある?」

 

 「すいません、終わっちゃいました。」


 「馬刺しは?」


 「すいません、それも終わっちゃいました。」


 「じゃ、何ならあるの?」


 「お客さん、だいぶ酔われてますよね。うちは酔いすぎたお客さんに出す料理はありません。お代は結構ですから。」


 頬の赤い初老の酔客は、飲みかけの焼酎をカウンターに残し、しゃっくりをしながら千鳥足で店外の雑踏に消えていった。



 2メートル横の出来事に耳を澄ませながら、そのうち、


飲みすぎてふらふらだったのに、店主が酒を出すのをやめてくれなかったから、帰りに転んで怪我をした。損害賠償を請求したい。」


という相談が来るのだろうかと考えていた。私も結構飲んでいたようだ。



 弁護士 田中


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