弁護士石井です。
社会福祉法人の理事が、理事会の決議なく、為替リンク債を証券会社から購入した行為についての裁判例紹介です。
理事による無断売買、無権限の法律行為の問題です。
東京高等裁判所判決平成28年8月31日
・事案
社会福祉法人の理事が証券会社から為替リンク債を購入。
理事会での承認決議なし。
その後、社会福祉法人が売買が無効と主張し、購入代金の不当利得返還請求をする。
証券会社側は、民法110条類推適用で、契約の効果が社会福祉法人に帰属すると主張。
・判決内容
原審は、証券会社の主張を認め、請求棄却。
本判決は、証券会社に過失があるとして、民法110条類推適用を否定、原告の請求を認めています。
上告も棄却。
民法110条は、表見代理の規定です。
代理権がないのに、代理人として行動した場合に、相手方を救済する制度です。
何らかの代理権を与えていて、その権限をこえる契約をした場合でも、相手方が権限があると信じた正当な理由があると保護されます。
そこで、証券会社に過失があるかどうかが争われました。
証券会社の担当者として、理事会承認決議の議事録の提出を求めてないことなどが過失とされました。
取引金額も合計11億円と大きい金額だったので、議事録の提出を求めたりする必要があるとされたものです。
理事から確認書などは取得していたものの、その場で作成したものであり、他の理事に意思確認もしていないことから、社会福祉法人側の請求を認めています。
このような法人と大きな取引をする際には、議事録の内容を確認しておかないと、あとで契約の効力を覆されるリスクがあるということで、ご注意を。
議事録の確認をすることは失礼ではありません。
前判示のとおり、被控訴人が控訴人と本件各契約を締結する窓口であった補助参加人においては、控訴人を無借金経営で手元現預金が潤沢で資金繰りの懸念のない顧客であり、補助参加人のP支店で最も大切な顧客と考えていたものと認められる。そして、控訴人の財務担当の理事であったDに対しては、控訴人の東京事務所で財務を取り仕切るものとして信頼を置いていたことが認められる。また、本件各契約に当たっては、控訴人の会長名義で注文書兼確認書(甲1ないし3の各2)が徴求されており、同裏面には、「当該取引は甲(控訴人のこと。以下同じ)の目的の範囲内の業務ないし事業であり、且つ甲にかかわる法律及び甲の定款・規則・寄附行為等、規程上必要とされる手続を全て経ており、かかる法律、規程上の制約等に違反していないことを確認します。」との文言が印刷されており、補助参加人がDにおいて被控訴人との本件契約1ないし本件契約3を締結する権限があったと信じたことには、相応の理由があったというべきである。
しかしながら、社会福祉法39条は、「社会福祉法人の業務は、定款に別段の定めがないときは、理事の過半数をもって決する。」と規定し、一方、控訴人の定款10条1項が日常の業務として理事会が定めるものについては会長が専決できるものの、それ以外の業務の決定は、理事会によって行うと定めていることは前判示のとおりである。そして、前記(1)の認定事実のとおり、本件契約1の締結に先立ち、Dが補助参加人に対し、理事会の承認が必要であると告げた上、補助参加人は控訴人の定款を受け取って、日常の業務として理事会が定めたものを除き、控訴人の業務決定には理事会の決定が必要であることを確認し、又は確認できたものと認められる。そして、本件各商品の価額に照らし、Dが有する事務処理権限によって本件各契約を締結することができるとは到底考えられず、補助参加人、そして補助参加人を窓口に控訴人と本件各契約を締結した被控訴人においても、そうした事実を知り、又は知り得べきであったというべきである。そして、前記(1)の認定事実のとおり、前記記載のある注文書兼確認書(甲1ないし3の各2)等も、Dがその場でC又はD名義のものを作成し交付したものを受領したにすぎないのであって、理事会の承認については、Dがそのように言ったということ以外、客観的な資料は全く存在しなかった。
この点、被控訴人は、Dに対し、議事録の写しの提出を求めるような失礼なことはできなかったと述べるが、重要な顧客の財務担当理事であるDへの信頼が高かったとはいえ、単に遠慮したにすぎないのであって、3億円ないし5億円もの金融取引を行うに当たって当然金融機関に求められる客観的な裏付けを得ようとする努力を怠ったものといわざるを得ない。そして、補助参加人又は被控訴人は、会長であるCに面会することも、前記(1)の認定事実のとおり、面識のあるEに確認することもなく、結局のところ、Dの説明をそのまま受け入れる以外の確認作業はしなかったのであるから、かかる被控訴人の態度には過失があったというべきである。
d したがって、本件各契約について、民法110条の規定を類推適用して、控訴人に効果が帰属するとは認められない。
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