弁護士石井です。
なりすましの被害相談は、実際にかなり多く寄せられています。
そんな中、消費者金融業界があらたな対策に乗り出したとのプレスリリースがありました。
https://www.j-fsa.or.jp/doc/news/r7/250825_2.pdf
2025年8月25日から運用開始とのこと。
なりすまし対策の新体制がスタート
8月25日、貸金業界で画期的な取り組みが開始されました。SMBCコンシューマーファイナンス、アコム、新生フィナンシャル、アイフルの大手4社が、日本信用情報機構(JICC)と連携して、なりすまし契約対策に乗り出したとのことです。
この取り組みは「虚偽申込情報をJICC会員企業間で共有する」ということ。日本貸金業協会も連携し、金融犯罪被害の未然防止と拡大防止を目指すようです。

今まで各社が個別に対応していた問題を、業界全体で情報を共有することで解決しようという発想です。これは、なりすまし被害の深刻化を受けての対応といえるでしょう。
金融犯罪の深刻な現状
なぜこのような取り組みが必要になったのか。背景には金融犯罪の急激な増加があります。
2024年の疑わしい取引の届出件数は80万件を超え、過去最多を記録したとのことです。特に貸金業界では、実在する第三者になりすまして融資金を詐取する手口が継続的に発生しています。
80万件は、相当に多いですね。緩い審査をしていると借主から身に覚えがないと言われ、消費者金融の利益を相当にあっぱくすることになりそうです。
この手口の問題点は二つあります。
まず、真正人(なりすまされた本人)の個人信用情報に事実と異なる情報が登録されてしまうこと。本人は借りていないのに、信用情報機関には借金があることになってしまいます。
次に、不正に得た資金が反社会的勢力や犯罪組織の資金源として流用される可能性があることです。単なる個人の問題を超えて、社会全体の安全に関わる問題となっています。
弁護士として多くのなりすまし被害相談を受けてきましたが、被害者の多くが自分の信用情報がどうなっているのか分からず、不安を抱えています。また、一度登録された情報を正すのは時間も労力もかかります。
情報共有システムの具体的な仕組み
では、具体的にどのような仕組みで情報共有が行われるのでしょうか。
貸金業大手4社は、借入申込時点で「なりすましの疑い」を検知し、新規申込みを拒絶した名義人の情報を、真正人の個人情報保護に配慮した上でJICCに報告します。
JICCは、この情報を個人信用情報照会サービスを通じて、JICC会員企業(消費者金融会社、信販・クレジット会社、金融機関など1,256社)に共有します。
これにより、A社でなりすましの疑いで申込みを拒絶された人物が、B社でも申込みをした場合、B社は事前にその情報を知ることができ、より慎重な本人確認を行うことができます。
怪しい人は、複数業者に借入申込みをしそうなので、情報共有をして防ごうという仕組みですね。
情報共有の対象は1,256社にも及ぶため、業界横断的な対策となります。消費者金融だけでなく、信販会社やクレジット会社、銀行などの金融機関も含まれており、かなり広範囲での連携体制が構築されたことになります。
期待される効果と課題
この取り組みによって、二つの主要な効果が期待されます。
一つ目は「虚偽申込による被害の防止」です。事前に情報を共有することで、なりすまし犯罪者が複数の金融機関を渡り歩いて被害を拡大させることを防げます。
二つ目は「名義悪用等による虚偽申込被害からの消費者保護」です。真正人が知らないうちに借金を背負わされることを防ぎ、信用情報への不正な情報登録を阻止できます。
また、この仕組みが機能するには、各金融機関の協力と適切な運用が不可欠です。情報を受け取った側が適切に本人確認を強化しなければ、効果は限定的になってしまいます。
今後の展望
現在は大手4社からスタートしていますが、将来的には消費者信用業界全体での普及が見込まれそうです。
より多くの金融機関がこの枠組みに参加すれば、なりすまし犯罪の抑制効果はさらに高まるでしょう。
日本貸金業協会も連携しており、業界全体の取り組みとして発展していく可能性があります。金融犯罪の手口が巧妙化する中、業界を挙げた対策は必要不可欠です。
詐欺被害者の多くが消費者金融等から借金をしている実態を考えると、消費者金融が入口の時点で詐欺被害対策もしてくれると、被害全体の減少にもつながるでしょうね。
なりすまし被害の請求を受けた場合
個人単位で、身に覚えのない請求を正式な消費者金融、クレジット会社から受けた場合、なりすまし被害でないかを確認するようにしましょう。
借入の際に作成された契約書や申込書、提出された身分証明書の写し等を開示請求し、偽造されたものであればその申告、警察への被害届などにより、自身の借入でないことを把握してもらうべきでしょう。
なりすまし被害だと思っていたものの、自分が忘れているだけの借金だったり、家族がやっていたりということもありますので、そのあたりの確認はあわせて進めておくべきかと思います。
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