弁護士石井です。
風俗店とのトラブルで示談交渉しているという相談は、実務上、珍しくありません。
しかし、その交渉相手が実は弁護士法違反ってこともあるわけですね。
今回、宮崎県で風俗店関係者が弁護士法違反で逮捕されるという報道がありました。この事例から、風俗トラブルにおける示談交渉の問題点と、不当請求を受けた側の対処法について解説します。
報道された弁護士法違反事件の概要
今回逮捕されたのは、都城市や宮崎市に住む男性4人です。

逮捕されたのは、都城市の会社役員31歳、宮崎市の風俗店店長31歳、都城市の建設作業員32歳、宮崎市の風俗店従業員32歳の4人となっています。
容疑の内容は、4人が共謀して、営業に関わっている無店舗型風俗店で、店の女性従業員と宮崎市内の宿泊施設などで不同意性交をしたとされる客に対して、弁護士資格がないにもかかわらず示談交渉や示談金の受け取りなどを行った疑いとのこと。警察は4人の認否を明らかにしていません。

弁護士法違反となる「非弁行為」とは
弁護士法では、弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁止しています。これを「非弁行為」といいます。
弁護士法第72条では、弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができないと定められています。
非弁行為に該当する典型例としては、示談交渉の代理、法律相談の提供、訴訟の代理などがあります。本件では、報道されている事実としては、風俗店関係者が客との示談交渉や示談金の受け取りを行っていたとされており、まさに非弁行為に該当する可能性が高いケースです。
風俗トラブルにおける示談交渉の実態
風俗トラブルの相談は、弁護士実務では比較的よくあります。
実務上よくあるパターンとして、まず、店長等の関係者が表に立ってくるケースがあります。
次に、高額な示談金を要求されるケースです。数十万円から数百万円の示談金を要求され、「訴訟になれば多額の慰謝料が認められる」と脅されたり、刑事告訴などの話も出しつつ、早期解決をちらつかせて即決を迫られたりします。
さらに、弁護士を装うケースもあると聞きます。実際には弁護士資格がないのに弁護士を名乗ったり、法律用語を多用して専門家のように振る舞ったり、名刺や書面で「法律事務所」と称したりします。ここまでやると、明らかに弁護士法違反の証拠になりますね。私自身は、風俗トラブルの事案では見たことがありませんが、他の分野では弁護士情報の偽造に出会ったことはあります。
店舗関係者以外の第三者が代理人と主張してくることもあります。
被害者が風俗嬢だとすると、法的にはまず代理人の権限が本当にあるのか、委任状等で調べる必要も出てくるでしょう。示談で解決するにしても、示談書も作れないことになります。
請求を受けた側の反論方法
今回の報道は、不当請求を受けた側にとって、一つの有力な反論方法になるシーンもあります。
まず、偽弁護士事案であれば、弁護士資格の確認をしましょう。確認方法としては、日本弁護士連合会の弁護士検索サービスで検索する、所属弁護士会を確認する、弁護士登録番号の提示を求めるといった方法があります。弁護士を名乗っているのに上記の確認ができない場合、弁護士詐称の可能性があります。明らかに違法な相手であれば交渉を拒絶して良いでしょう。
次に、代理権の確認です。弁護士以外で代理人と主張する人物と交渉するのであれば、委任状の提示を求める、可能なら被害者本人との直接確認を行う、代理権の範囲を確認するといったことが必要です。代理権がないのに交渉している場合、これも問題があります。
示談交渉を求めてきた際、相手が弁護士でないのであれば、「あなたは弁護士ではないようですが、弁護士でない方が報酬目的で示談交渉を行うことは弁護士法第72条違反となります。この交渉は法律上無効であり、応じることはできません。正当な請求があるのであれば、被害者本人または正式に委任を受けた弁護士から連絡をいただくようお願いします」と法的には主張することができるでしょう。
これにより、相手の交渉姿勢が変わる可能性もあります。
不当請求を受けた場合は、証拠を残すことが重要です。やり取りのメール、LINE、SMS、通話記録、可能であれば録音、受け取った書面やファックス、相手の名刺や連絡先などを保全しておきましょう。これらの証拠は、後に警察や弁護士に相談する際に役立ちます。
弁護士法違反を主張する際の注意点
ただし、弁護士法違反を主張する際には、いくつか注意が必要です。
まず、本人交渉は合法です。被害者本人が直接交渉してくることは、弁護士法違反ではありません。問題となるのは、「第三者が報酬を得る目的で」示談交渉を行うケースです。
次に、使用者による交渉についてです。店の従業員として働いている場合、その従業員の被害について店が交渉することは、それだけでは必ずしも弁護士法違反とは言いにくいです。
店が雇用主として従業員の権利を守る目的での交渉であれば問題ない場合もありますが、実質的には店の利益のための交渉である場合は判断が分かれます。このあたりの判断は微妙で、個別の事情によります。
さらに、風俗店の場合、お店自体の損害を主張し、店が主体となっての請求というケースもあります。交渉するにしても、風俗嬢とのトラブルなのか、お店とのトラブルなのかは整理して対応する必要があるでしょう。
報酬目的の立証
また、立証の困難さもあります。弁護士法違反を主張しても、相手が「報酬目的ではない」「ボランティアで被害者を支援している」などと反論する可能性があります。報酬性の立証は必ずしも容易ではありません。
さらに、トラブルの本質的解決にはならないという点も理解しておく必要があります。弁護士法違反を指摘することは、不当請求への反論材料にはなりますが、トラブルそのものの解決にはなりません。
風俗嬢との間で実際に何らかの法的問題がある場合は、それについては別途対処する必要があります。
風俗トラブルに巻き込まれたときの対処法
風俗トラブルに巻き込まれた場合の基本的な対処法をまとめます。
まず、冷静に状況を把握することが大切です。相手の主張内容を冷静に確認しましょう。何がどのような法的問題とされているのか、請求の根拠は何か、請求金額の算定根拠は何かといった点を確認します。感情的にならず、事実関係を整理することが重要です。
次に、安易に認めない、支払わないことです。相手の言うことを鵜呑みにして、すぐに認めたり支払ったりしてはいけません。その場での即決、念書や誓約書への署名、現金での支払い、振込での支払いは避けるべきです。一度支払ってしまうと、取り戻すことは極めて困難になります。
証拠を残すことも重要です。前述のとおり、証拠を残すことが大切です。特に、相手の不当な要求や脅迫的な言動については、しっかり記録を残しましょう。
今回の報道のように、弁護士法違反の可能性を指摘することも一つの方法です。相手が弁護士でない場合は、弁護士法違反の可能性を指摘することも選択肢となります。もっとも、問題のトラブル自体が、性犯罪的なもので、警察関与自体を避けたいという弱みがある場合、弁護士法違反での告発などには動きにくくなるでしょう。
ただ、実際に何らかの法的問題がある場合、例えば、本当に不同意性交があった場合などは、それについては誠実に対応する必要があります。弁護士法違反を盾に、正当な請求まで逃れようとすることは、かえって問題を大きくするリスクがあるでしょう。
なお、弁護士会には、非弁行為の調査などをしている委員会もありますが、今回のような風俗店の弁護士法違反自体が問題になっているような話は、弁護士会全体では出てきた記憶がないです。情報提供は違法行為の取り締まりとしては意味がありますが、個別事件での解決にはつながりにくいと考えます。



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