弁護士石井です。
『借地上の建物をめぐる実務と事例』
という本を読みました。
借地って意外と多いのですよね。
その中から、いくつかテーマを取り上げてみます。
・借地条件変更の裁判における判断要素について
契約上、居住用木造建造物所有目的と記載されているときに、商業用ビルに立て直したいと考えた場合、借地条件変更が認められるかどうかなどのテーマです。
貸主との協議が整わない場合には、借地条件変更の裁判をする必要があります。
この変更が認められるのは、「法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況変化その他の事情変更」があり、条件変更が相当な場合とされています。
借地周辺の客観的事情が重要な判断要素となるわけです。
法令の変更については、建築規制の変更や、都市計画法による用途地域の指定変更も該当するとされています。
また、目的土地の付近において、高層ビルの建築がなされているとか、工業地域から商業地域になったと変化がある場合には、要件を満たす可能性があります。
次に、裁判では、裁判所は、借地権の残存期間や、土地の状況等その他の一切の事情を考慮しなければならないとされています。
例えば、借地権の残存期間が短いときには、一般的な条件変更を認めない方向に動きます。
この手続では、裁判所は、条件変更の申し立てを認める場合、条件変更の決定に付随して財産上の給付を命ずることができます。
変更の承諾料みたいなものがかかるわけですね。
この際の金額について、旧借地法における非堅固建物所有目的から、堅固建物所有目的の変更の際には、目的土地の価格の10%相当額を支払うとされたことが多かったとのことです。
・増改築等禁止特約違反の効果
増改築等禁止特約がある場合、違反の効果としては、借地契約を解除できるとの効果が書かれていることが多いです。
ただし、判例では、違反した場合でも信頼関係の破壊に至っていない場合には、契約の解除が認められないとされています。
・増改築とは
現状維持のための必要な限度で行った修繕については、増改築禁止特約で禁止されている増改築には該当しないとされています。
例えば、東京地裁平成28年8月26日判決では、台風によって屋根が損壊した場合に、やむを得ず終了したものに関して、増改築には該当しないと判断しています。
また、東京地裁平成27年12月18日決定では、外壁の高圧洗浄、塗装、門扉の塗装、外壁及び屋根の塗装、雨漏り対策としての部分的なシーリングや外壁のひび割れの補修、屋根の棟板の金釘打ち、玄関廻りガラリ板、玄関扉表面のニス塗装等の工事は、いずれも増改築には該当しないとされました。
・増改築の承諾料
増改築について、裁判所が承諾に代わる許可をする際には、財産上の給付を命ずることができます。
承諾料のようなものですね。
金額の目安としては、全面改築の場合には、更地価格の3~5%程度、増改築に準じる大規模修繕においては、更地価格の1%程度だとされています。
ただし、これを上回るような裁判例もあります。
・建物買取請求権について
老朽化し対応年数を超えたため市場価格が認められない建物について、建物買取請求が認められるケースもあります。
例えば、東京地裁平成28年2月25日判決。
建物自体の価値はないとされたものの、建物そのものの価値に加えて、建物の存在する場所的に影響加算して価格を決めるべきだとされました。
この裁判では、建物自体の市場価格は0円と認めたものの、建物の存在する場所的利益として、本件土地の更地価格の12%程度にあたる8,000,000円が相当として、この支払いを命じています。
地主としては、借地契約の終了により建物収去明渡請求をしたところ、建物買取請求権を行使され、場所的利益の支払を命じられるという形になっています。
今後、借地上の老朽化した建物について問題になる場合には、参考になる裁判例かと思います。
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