弁護士石井です。
最近、刺激を受けた他の弁護士の記事があったので紹介しておきます。
SNS投資詐欺で1000万円単位での被害回復をしているとか。すごい。
詐欺被害回収の現状
振り込め詐欺や投資詐欺の被害回収について、弁護士会も国民生活センターも「詐欺被害の回収は困難」と言い、「回収できる」という広告弁護士事務所での二次被害に注意喚起しています。
相談者の中には「そんなこと言われても」(自分のお金は戻ってこない)と嘆く人もいました。
そのようななかで、先月、都内の荒井弁護士が、高額回収事案をブログで報告していました。彼は、たしか弁護士が選ぶ消費者問題系弁護士でも上位にランクインしていた弁護士です。
1000万円単位の被害回収事例の報告でした。
オーソドックスな手法
事例を詳しく見ていくと、オーソドックスな方法を徹底的に実行することで、相当額の回収ができることがあると分かります。
驚くべきは、特別な裏技があるわけではないということです。基本に忠実でありながら、そのスピード感と徹底さが成功の鍵となっているようです。
弁護士会は、直ちに荒井弁護士に対して研修依頼を進めるべきでしょう。
競合相手が増えるので難しいかもしれませんが、全体的な被害者救済には役立つはず。
すぐに訴訟提起、銀行も
具体的には、依頼を受けてすぐに訴訟を提起。
被告30名とかになっているので、振り込んだ口座名義人と法人であれば代表者、銀行をすべて被告にする訴訟でしょう。
振込先の情報しかない場合、口座名義人の氏名・住所は正確にわかりません。
ヤミ金融の全盛期には、被告の氏名・住所を不明にして訴訟提起、裁判所の調査嘱託で銀行に聞くという方法も使われていましたが、裁判所も、いきなり調査嘱託の対応を取ってくれなくなり、弁護士会の23条照会を活用するよう言われます。
23条照会では回答が来るまで時間がかかります。
依頼を受けてすぐに訴訟提起するには、23条照会をかけつつ、同時に口座名義人の氏名・住所は不明のまま訴訟提起、裁判所には、23条照会をかけているので、後日、補正する予定と伝える形になるかと思います。
振り込め詐欺救済法による口座凍結
振り込め詐欺救済法による口座凍結申請もしておくのは当然。
資金移転先口座名義人に対する提訴も後からしているので、おそらく口座凍結申請時に、その凍結依頼もしていると推測。
当初の振り込んだ口座からの資金移転先口座が判明したら、そちらも同様に被告にする訴訟を起こす流れですね。
凍結申請の際のやりかたは、Q&A振り込み詐欺救済法ガイドブックなんかに書いてある方法でしょう。
訴訟提起の際には銀行も含めた代位訴訟で振り込め詐欺救済法の手続きを止める。
並行して、仮差押えを何件かしているので、残高によって選別しているものかと。
判決などの債務名義が取れたら口座から強制執行で回収するという方法のようです。
情報収集のため現場にも行く
特筆すべきは、現場での情報収集を重視している点です。
このような口座名義人については、23条照会により、銀行で登録した住所が判明しても、訴状が届かないケースは多々あります。
そうすると、裁判所からは現地調査しろと言われます。
遠方だと調査会社の活用もあるようですが、荒井弁護士は、自身が現地調査に赴くことも多そうです。
現地で名義人に接触できた場合、手続きに協力してもらえたり、情報をもらえる可能性があるからでしょう。
こういう口座だと、名義人が外国人であることも多いのですが、ベトナム語の通訳同行もしているとか。ここはオーソドックスな方法ではないですね。
名義人と関係を持ち、被告本人に請求認諾してもらって強制執行を早めたり、おそらく資金の流れに関する情報を取得していると推測されます。
荒井弁護士は、日弁連で債権回収の研修講師をしていましたが、こちらも非常に好評。私自身も動産執行の現場に行って情報を収集するという話を参考にさせてもらった記憶があります。
債権回収でも現場での情報収集を重視していたので、現場周りも辞さないスタンスなのだろうと予想しています。
回収可能性は下がっていく
ブログの中では、専門家がしっかり手続きすれば回収はできるはずという趣旨の記載もあり、耳が痛いところです。
とはいえ、同弁護士も回収は簡単ではないと言い、しかも、徐々に回収確率は下がっているとの情報提供もされています。
報告されている事案でも、最初の3か月で全く回収できていないものも報告されており、運要素も大きいことがわかります。
さらに、詐欺グループ側も対策を講じてくるため、同じ方法が長期的に通用するとは限りません。あちらの方が、口座名義人の協力は得られやすい立場におり、凍結口座から回収する方法が消費者問題の会合では報告されていたりもします。
回収のための費用が予想しにくい
また、実務上の課題として、依頼者への費用説明の問題があります。
問題になりそうなのが実費です。
裁判の着手金・報酬、訴訟提起の際の印紙代や切手代、23条照会費用などは事前に伝えられるとしても、上記のとおり、被告住所に送達できなかった場合の、調査費用や通訳費用などは、やってみないとわかりません。くわえて、仮差押えを何件やるか、担保金をどうするかという大きな問題もあります。
荒井弁護士の記事でも、「仮差押のための担保を含む相当額に上る実費預り金を(借りられるなら借りてでも)工面できるのでなければ依頼を受けない。人生の一大事として被害回復を切実に望む依頼者の期待に当職が(十分でないにせよ)応えうる可能性を生じさせる大前提として、語弊を恐れずに言えば、手足を縛られずにできる限りのことをできる状態にあることが不可欠だからである。」との記載があります。
このスピード感で手続きを進めるとなると、「仮差押えに値する財産が発見できたから費用を準備して」と依頼者に伝えて準備してもらっていたら間に合わないです。
ある程度、包括的な委任契約をしないと動きにくいでしょうね。
しかし、そんな方法を弁護士会の研修とかで伝えると、悪用されそうな気もしますね。
被害直後なら弁護士に依頼も選択肢
それでも、この事例記事は「投資詐欺被害は回収不能」という固定観念を見直すきっかけとなりました。
被告数十人の訴訟とかだと、事務局から悲鳴が聞こえそうですが、タイミングによって相談・依頼があれば対応してみようと思います。
最近受けた相談では、1年以上前の被害だったり、借金での送金もあり23条照会費用も出せないというものだったりで、条件を満たすものはなかったのですが、依頼があった場合には適切な対応ができるようにはしておきたいところです。
凍結して間もないタイミングであり、それなりのコストがかけられる場合には、このようなスピードで法的手続きを取ってくれる弁護士を探してみるのが良いのかもしれません。
ただし、くれぐれも広告経由やLINEで気軽に相談、というところは止めておきましょう。
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