レンタル彼氏とクーリングオフ(業務提供誘引販売)

レンタル彼氏 悪質商法

弁護士石井です。

消費者法ニュース144号に「レンタル彼氏は業務提供誘引販売取引に該当する」と判断する判決が相次いでいるとの記事がありました。

業者から上告されているようですので、まだ確定してはいませんが、高裁レベルでは、クーリングオフを認められているようです。

レンタル彼氏ビジネス

問題とされたG社は、ウェブ上で「レンタル彼氏」として男性を募集していました。宣伝文句は「高収入アルバイト」。スマートフォン一つで、月々多くの稼ぎが得られるというものでした。

レンタル彼氏なるものは、複数の業者が展開しており、マイベストでもレンタル彼氏ランキングなる記事が作成されています。おそるべしマイベスト。

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今回のG社が運営していたポータルサイトでは、登録すれば、女性ユーザーとマッチングして、デートの相手をすることで報酬が得られる、という話でした。

応募者がG社と契約を結ぶと、すぐに初期費用と月額のポータルサイト利用料を支払う必要がありました。

仕事の斡旋ではなく、登録料が目的

契約を結んだ人たちが気付いたのは、実際には仕事がほとんど提供されていないということです。

確かに自分たちのプロフィールはサイトに掲載されました。

しかし、その後、G社が積極的に仕事を紹介することはありませんでした。むしろ、契約解除を申し出ても応じられず、プロフィール情報が更新されないまま放置されながら、月額利用料だけが引き落とされ続ける、そういったケースが相次いだとのこと。

つまり、G社の本当のビジネスモデルは、レンタル彼氏に仕事を斡旋することではなく、サイト登録料や月額利用料を徴収することそのものだったと推測されます。

「高収入アルバイト」と謳いながら、実質的には登録者から金を巻き上げるだけのスキームの可能性があります。

約束された収入を得られないまま、数か月間にわたって利用料を支払い続ける人もいるでしょう。

支払を拒絶して放置すると、数年後に一括請求を受けてG社から訴訟提起された事案が多数あるようです。

「広告代行」という事業者の言い逃れと裁判所の判断

ここで興味深いのが、裁判所での法的な争い方です。

G社は法廷で、「我々のサービスは仕事の提供や斡旋ではなく、あくまでレンタル彼氏個人のための広告代行に過ぎない」というものでした。

言い換えれば、G社は「場を貸しているだけ。顧客とレンタル彼氏を繋ぐ『場』であり、仕事の斡旋主ではない」と主張したわけです。

この主張が通れば、特定商取引法などの消費者保護法の規制が適用されにくくなります。そうなれば、被害者の救済がかなり限定されてしまいます。事業者としては、なんとしてでも「単なる場の提供者」という立場を守りたかったのでしょう。

一部の地方裁判所ではこのような主張が認められてしまっています。

ところが、東京高等裁判所はこの主張を退けています。

東京高等裁判所は、G社の実際の業務内容を詳しく認定。

G社は、レンタル彼氏の希望を聞き取り、写真撮影をサポートし、プロフィールやブログを作成して掲載していました。さらに、顧客からの予約メールをレンタル彼氏に転送するなど、顧客とレンタル彼氏との間の契約締結を積極的に促進していました。

これらの事実から、裁判所は「G社は単なる場の提供者ではなく、レンタル彼氏の業務を実質的に『あっせん』している。G社とレンタル彼氏が一体となって事業を行っている」と判断しました。

つまり、事業の実態が「広告」ではなく「仕事の斡旋」だったのです。事業者がどう呼ぶかではなく、実際に何をしているのかが、法的な性質を決定づけるということです。

特定商取引法でのクーリングオフ

G社が仕事の斡旋事業を行っていると判断されたことで、被害者にもたらされたのが「特定商取引法」の適用です。

特に重要なのは、特定商取引法第51条に定められている「業務提供誘引販売取引」というルールです。

これは、一種の内職商法等を規制するための条項です。「この機材を買えば、儲かる内職を回してあげます」といった手口で、高額な商品を売りつける悪質な業者から消費者を守るためのものです。

G社の場合も構造は同じ。「サイトに登録すれば、高収入のレンタル彼氏の仕事が得られます」と謳いながら、登録料を取るだけで実際には仕事を提供しなかったわけです。

仕事などで利益を得られるような話で勧誘して、負担を発生させる構造で消費者を救済する制度です。

この業務提供誘引販売取引に該当すると認定されると、被害者には「クーリング・オフ」という強力な権利が認められます。

クーリング・オフは、契約日から一定期間内であれば、理由を問わずに契約を解除できる制度です。さらに重要なのが、その法的効果です。契約が遡及的に消滅するため、支払拒絶にとどまらず、被害者は支払った登録料などの返還を請求することができるのです。

業務提供誘引販売取引に注意

記事では、判決文の紹介がないため、未確認ですが、争いの流れを見るに、レンタル彼氏関係の契約では、クーリングオフ条項の記載がなかった可能性が高いです。

クーリングオフには、期限があります。もっとも、その期限は、法的に有効な書面等を交付してからスタートするとされます。数年後の請求だとすると、そもそも書面を受け取っていないからクーリングオフ期間はスタートしていないと主張したのでしょう。

しっかりした書面を交付していれば、業者側は、期限が過ぎたからクーリングオフはできないと反論したはずです。

副業関係の商法では、この業務提供誘引販売にあてはまるものが、相当にあります。これに対し、業者側が、クーリングオフなどの規定をしっかりしていないことが多いです。

消費者側としては、業務提供誘引販売の該当性、クーリングオフが使えるかを検討すると良いですし、業者側は、そのような事態を避けたければ、しっかりした規定を契約に盛り込むべきでしょう。

業務提供誘引販売取引は、いろいろな類型があるのですが、イメージ的にレンタル彼氏なるものでクーリングオフが使えるとは思いませんでした(契約内容を分析すれば該当すると考えます)。

まだまだ、レンタル彼氏の勉強が足りないようです。

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