弁護士石井です。
マッチングアプリで独身と嘘をついた男性に貞操権侵害での慰謝料支払を命じる判決が報道されていました。


貞操権侵害の相談、問い合わせもありますのでチェックしておきます。
独身という嘘
マッチングアプリは、現代の恋愛や結婚の入口としてすっかり定着しました。しかし、スマホの画面越しに見える情報は、必ずしも真実とは限りません。
「この人、本当に独身なのだろうか?」
そんな不安を抱えながらアプリを利用している人は、きっと少なくないでしょう。
今回の報道では、独身限定のアプリで出会った男性が、実は既婚者だったとされています。
この裁判では、男性の嘘が「貞操権の侵害」として慰謝料55万円の支払いを命じられています。
「独身と偽る行為」は貞操権の侵害に
今回の裁判で最初に争点となったのは、「独身と偽った行為が、法的にどこまで問題となるのか」という点でした。
アプリ側は利用規約で「未婚者限定」と明記しており、男性は既婚の事実を隠して登録。さらに交際し、性的な関係を持つに至ります。
男性側は法廷でこう述べました。
「自由な色恋の範囲であり、問題とされるほどのものではない」

しかし裁判所はこの主張を退けます。
鍵となったのが、判例で認められてきた “貞操権(性的自己決定権)” の考え方です。
これは、
「誰と性的関係を結ぶかを、自分の意思で決める権利」
を意味します。
裁判所は次のように判断しました。
既婚者であるかどうかは、交際や性的関係を決めるうえで極めて重要な情報である。
つまり、
相手が独身だと信じて交際し、性的関係を持った場合、その前提を壊す“嘘”は権利侵害にあたる
ということです。
その結果、男性には 慰謝料55万円の支払い が命じられました。
女性の名誉毀損責任
しかし、女性にも責任が問われました。
女性はこの出来事をSNSの有名配信者に告発し、男性の行為を公表しました。
すると男性が逆に 名誉毀損で反訴。裁判所は女性に 34万円の賠償命令 を下しました。
つまり、
- 男性の嘘 → 権利侵害(違法)
- 女性の公表 → 名誉毀損(これも違法)
と双方に違法性が認定されたのです。
感情的に納得できずSNSで公表しちゃう行為も、違法になることはよくあります。
感情的になってもやりすぎちゃダメってことですね。

「アプリ婚」の一般化
こども家庭庁の調査では、
- 直近5年間に結婚した人の25.1%がマッチングアプリで出会っていた
という結果が出ています。
職場(20.5%)を上回り、最も多い出会いの場となりました。
しかし、手軽さゆえに“リスクもセット”で増加している様子。
民間の調査では、
- アプリ利用者の7割以上が何らかのトラブルを経験
と回答。
内容には、
- 投資詐欺
- マルチ商法の勧誘
- 既婚者の独身偽装
など、悪質なケースも多く含まれています。
出会い系アプリを利用→投資詐欺→多重債務→自己破産という相談もよくあります。
「独身証明」の時代へ?
オンラインの出会いが主流になり、リスクも叫ばれる中で、アプリ運営側にも変革が求められています。
最近の動きとして、次の2つが注目されます。
- マイナンバーカードを利用した本人確認の強化
恋愛・結婚マッチングアプリ協会がデジタル庁と連携して推進中。 - 独身証明をプロフィールに表示する仕組みの導入
戸籍情報と照合し、独身が確認できた場合に表示されるアプリも登場。
そのうち、本人確認を適当にしているアプリは責任追及をされるかもしれません。


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