弁護士石井です。
『「人生が充実する」時間の使い方』という本を読みました。
時間管理に関する本で、UCLAのMBA教授が提唱する時間の使い方について解説した本です。
この本では、「時間貧乏」から脱出する方法として、多くのエクササイズが紹介されています。これに取り組むことで、「最適」な時間の使い方を設計するという話が主です。
ただ、印象的だったのは、時間貧乏と真逆の視点。時間富豪(?)、可処分時間が多すぎても不幸になるという視点でした。
時間がありすぎると不幸になる。
個人的には、FIREとかで引退したら病むだろうと予測していたので、やっぱりーと感じた本です。
可処分時間と幸福度
本書では、可処分時間(自由に使える時間)が幸福度にどのように影響するのかについて詳しく説明されています。
具体的には、可処分時間が1日2時間未満のように短すぎると幸福度が下がる一方で、可処分時間が1日5時間以上など長すぎると生産性を感じることができず、これも幸福度を下げる要因となると指摘されています。
可処分時間を適切に確保し、意識的に時間を使うことで、幸福度を上げることができるとのこと。
FIRE後に不幸になった男のエピソード
可処分時間が増える話としては、早期リタイアのFIREがあります。
本の中では、ベンという男性のエピソードが紹介されています。
ベンは分析的思考に優れた勤勉な男性で、ヘッジファンド運用会社で働いていましたが、社内政治と仕事のストレスに悩まされており、家庭との時間を失っていました。
金銭的な余裕があったため、ベンは38歳で早期リタイアを選び、家族との時間を楽しむことを決意しました。
「そうすれば、これまでずっとやりたかったけれど仕事が忙しくてできなかったあれこれ-家族とリラックスしたり、バカンスへ行ったり、読書を楽しんだり、思い切り運動したり-を、すべてできる時間が手に入るでしょう
しかしベンは、目標指向型の人です。ぼんやりと過ごすのが嫌いで、生産的でいることで心が満たされます。のんびりしようと思っていたのに、あり余る時間を手にしたせいで、閉塞感のようなイライラに襲われました。何か目標が必要だと悟ったベンは、ゴールを一つ設定しました。」
ベンは自分に新しい目標を設定し、アメリカ最古のトレイル・ランニングの大会「ディプシー」に出場することを決意しました。厳しく危険なレースとしても有名な大会でした。
「ベンは何カ月間もコツコツとトレーニングを重ねました。坂道トレーニング、長距離ランニング、ウェイト・トレーニング、休足日、食事制限といった、推奨されているトレーニング法にしっかりとしたがいました。」
彼は数カ月間トレーニングを積み重ねましたが、レース中に体調を崩し、完走することはできませんでした。
「スタート直後は、自分に妥当だと考えて設定した目標タイムを上回ろうと、速いペースで進みました。ところが6キロを過ぎたあたりで、息が苦しくなってきます。無理がたたり、脱水症状と暑さに完全にやられてしまいました。ふと我に返ると、茂みの上に寝そべり、救急隊員に囲まれていました。隊員たちは、ベンをどう救急車に担ぎ込むか話し合っています。全身が痒く感じました。
倒れたときにクッションになった毒オークの毒性が、悪さをし始めていたのです。
ベンは、心配に駆られた家族と再会し、医者から大丈夫だと太鼓判を押してもらってようやく、自らを追い込んだ状況がどれだけ滑稽だったかと笑い飛ばせるようになりました。目標達成に向けて努力するタイプのベンにとって、何日も「何もしない」のは不快でした。その日何をしたかを示す実績がまったくない日々に不満が募りました。そこで、本来なら楽しいはずのアクティビティに厳しい目標を立て、追いかけることにしたのです。回復に向かいながら、レースに向けて厳しく自分を追い込んだバカバカしさを悟りました。」
私も、休みの日に何も予定がないと落ち着かない性格なので、このような目標指向型なんだろうなと共感しまくりました。
可処分時間が長すぎると幸福度が下がる理由
1.生産性の欠如:
人々は自分の時間が有意義に使われ、何か達成したり、進歩したりしていると感じることで満足感や幸福感を得ることがあります。
可処分時間が長すぎると、生産性が低下し、達成感や進歩を感じにくくなる可能性があります。これは、幸福度を下げる要因となる可能性があります。
2.目的の欠如:
時間が過剰にあると、その時間をどのように有意義に使うか、どのように計画するかが難しくなる可能性があります。
人々は目的や目標を持って時間を使うことで幸福感を感じることがありますが、可処分時間が長すぎると、これらの目的や目標を設定し、達成するのが難しくなる可能性があります。
3.社会的接触の欠如:
社会的な活動や他人との交流は、人々の幸福度に大きく影響することが知られています。可処分時間が過剰にあると、社会的な活動や他人との交流の機会が減少する可能性があり、これが幸福度を下げる可能性があります。
4.ルーチンの欠如:
ルーチンは日常生活に一定の構造を提供し、安定感や安心感を提供することがあります。可処分時間が長すぎると、日常的なルーチンが崩れ、これが不安や満足度の低下を引き起こす可能性があります。
5.自己評価の低下:
自分の時間が効果的に使われていないと感じることは、自尊心や自信を低下させ、幸福度を減少させる可能性があります。
目的志向型の人が幸福に近づくための方法
原因に対する対策を出すと、こんな感じ。
1.目標設定:
有意義な個人的、またはプロフェッショナルな目標を設定し、それらに向かって努力することで、達成感や満足感を感じることができます。
2.時間の計画:
可処分時間を効果的に計画し、各タスクや活動に十分な時間を確保することで、時間を有意義に使うことができます。
3.スキルアップと学習:
新しいスキルを学んだり、知識を深めたりすることで、自己成長を感じ、幸福感を向上させることができます。
4.ボランティア活動やコミュニティへの貢献:
他人やコミュニティに貢献することで、満足感や幸福感を得ることができます。
5.社会的接触の維持:
友人や家族との関係を維持し、社会的な活動に参加することで、幸福感を得ることができます。
6.リラックスとリフレッシュ:
リラックスしたり、趣味や娯楽を楽しんだりする時間を確保することで、ストレスを減らし、幸福感を得ることができます。
7.セルフリフレクションとマインドフルネス:
自分自身の感情や思考を理解し、マインドフルネスや瞑想の実践を通じて、内面的な満足感と平和を追求することができます。
目的意識とか、やりがいを手にするには、有償の仕事である必要はないと本の中では紹介されています。
ただ、その対策としては、ボランティア活動とか、健全な子どもを育てたり家庭を築いたりするのに必要な作業、あきらかに仕事ではない活動(例”趣味やスポーツ)のなかに、生産的でやりがいを求めることが提案されています。
しかし、これを突き詰めていくと、ベンのレースのようになってしまうような。
まとめ
本の中の大部分は、時間貧乏、つまり可処分時間が少ない人、追われている人の対策ではありますが、そちらは他の時間本でも良いかと。
目標志向型の性格の人にとっては、FIREなどを目標にすると、その後の人生の幸福度が下がる可能性があるので、それをどうするか事前にシミュレーションするためにも役立つ一冊といえます。
対策として紹介されているものも、個人的にはイマイチパッとしないなあと感じています。
時間があったらやりたいと思うことは色々ありますが、冷静に具体的にイメージしてみると、結局、すぐに飽きそうなんですよね。
よほどの活動が見つからない限り、仕事を続けながら時間管理を適切に行う方が良いのではないでしょうか。
著者自身も、やりがいを感じる活動の大部分は、結局、仕事だと言っています。
周囲の年配の弁護士を見ても、完全に引退する人は少数で、仕事のスタイルを変えつつ、弁護士業は続けている人が多いですね。
私もそうなりそう。
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