専属的合意管轄と移送

裁判所 会社の相談

弁護士石井です。

移送に関する裁判例の紹介です。
移送は、裁判が起こされた後に、別の裁判所に移される制度です。

裁判は、実際に行って、出席を求められることも多く、移動距離の多い裁判所だと、それだけ費用・時間の負担がかかってきます。
ですので、どこの裁判所で裁判ができるか、という問題は、シビアな問題なのです。

そのため、企業などが準備する契約書では、なるべく地理的に有利な裁判所で裁判できるような専属的管轄条項が設けられることが多いです。

今回のケースでも、そのような条項がありました。
事例

原告は、自分の所在地の裁判所に訴訟提起。
契約書には、被告の住所地を管轄する裁判所を第1審の専属的合意管轄裁判所とする旨の定めがあった。
被告は、民事訴訟法16条1項に基づき移送を申し立て。

一審は移送申立を却下。
二審も同じ判断。

当事者間で専属的合意管轄が成立している場合であっても,受訴裁判所が法定管轄を有し,かつ,当事者及び尋問を受けるべき証人の住所その他の事情を考慮して,訴訟の著しい遅滞を避けるために,当該受訴裁判所で審理する必要があると認められるときは,民事訴訟法16条2項,17条及び20条1項の趣旨を類推して,当該受訴裁判所において審理することが許されるとした上で,本件では,受訴裁判所において審理することが訴訟の著しい遅滞を避けるために必要と認められる

という理由です。

被告は、不服として再抗告。

契約当事者間の管轄合意には一定の重みが認められるべきであるから,専属的管轄合意に反して法定管轄裁判所で審理することが許されるためには,当該法定管轄裁判所で審理する「特段の必要」が認められる必要があり,単なる必要性で足りるとした原決定には,民事訴訟法17条の法令解釈を誤った違法があるというものである。
東京高裁平成22年7月27日決定では、法定管轄裁判所で審理する「特段の必要」があると認められるときは,専属的合意管轄裁判所に移送することなく当該法定管轄裁判所で審理することができるとされており、本件でも特段の必要まで認められないとだめだと主張したものです。

専属的合意管轄裁判所に訴えが提起 → 法定管轄裁判所への移送申立てがされた場合、民事訴訟法20条、17条による移送が許されます。

したがって、同法17条が定める要件「訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」があるかで判断されます。

逆に、法定管轄裁判所に訴え提起 → 専属的合意管轄裁判所への移送申立てがされた場合、民事訴訟法には規定がありません。

しかし、民事訴訟法17条及び20条1項の裏返しとして、専属的合意管轄裁判所での審理が訴訟の著しい遅滞をもたらしたり、当事者間の衡平を害する恐れがあるときには、移送をしないこともできるとされていました。趣旨の類推により、このような判断がされます。

今回、このケースでの判断の際に、東京高裁決定があったので、特段の必要という要件が必要か争われました。

今回の名古屋高裁は、
専属的管轄合意の存在は,民事訴訟法17条に定める「その他の事情」として考慮され得るにとどまるのであり,そのことは,専属的合意管轄裁判所から法定管轄裁判所への移送が問題となる場合と,法定管轄裁判所から専属的合意管轄裁判所への移送が問題となる場合で異ならないと解される。
と判断し、移送を認めませんでした。

裁判所は、専属的管轄合意について、あまり重視しない立場にありますね。
契約書に、この条項を設けたからといって、必ずしも管轄が認められるわけではありません。

名古屋高等裁判所決定平成28年8月2日

再抗告人は,契約当事者が管轄裁判所について合意をしているときは,当該管轄合意に一定の重みが認められるべきであるから,受訴裁判所で審理をすることが許されるためには,訴訟の著しい遅滞を避けるために必要と認められる場合というだけでは足りず,当該受訴裁判所で審理する「特段の必要性」が認められる必要があり,単なる必要性で足りるとした原決定には,法17条の法令解釈を誤った違法があると主張する。
しかしながら,法17条は,当事者が専属的管轄合意をしている場合にも適用されるのであるから(法20条1項),専属的管轄合意があっても,訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要があると認められるときは,当事者の合意により当該訴訟につき専属管轄を有する裁判所(以下「専属的合意管轄裁判所」という。)に提起された訴訟を,専属的管轄合意がなければ当該訴訟につき管轄を有すべき他の裁判所(以下「法定管轄裁判所」という。)に移送することが許される。この趣旨に照らせば,これとは逆の場合,すなわち,法定管轄裁判所に訴えが提起され,専属的合意管轄裁判所への移送申立てがされた場合の判断基準も同様に考えるのが合理的であって,逆の場合についてのみ,「特段の必要性」との要件を付加すべき根拠は見いだし難い。

この点,再抗告人は,専属的管轄合意に一定の重みが認められるべきであると主張するが,それは法17条の適用場面にも妥当するのであって,法が,専属的管轄合意がある場合には法定管轄裁判所で審理する特別の必要性を要求するとの立法政策をとっていない以上,上記主張は採り得ない。したがって,専属的管轄合意があることが,法17条にいう「その他の事情」として考慮されることはあるとしても,それも考慮した上で,「訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要がある」と認められた場合には,専属的合意管轄裁判所に移送せずに,法定管轄裁判所において審理することが許されると解するのが相当である。
したがって,再抗告人の上記主張は採用することができない。

移送に関する他の裁判例は動画でも解説しています。

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