被告の住所を調査したものの訴状の送達が無効とされた裁判例

裁判所 民事

弁護士石井です。

訴状の送達が問題になった裁判例の紹介です。

 

裁判の流れとして、原告が訴状を裁判所に提出、訴状審査の後、第1回期日の決定、裁判所が被告に訴状と期日の呼出状を送達することになります。
この際、特別送達という方法が使われます。郵便費用がけっこう高いです。

裁判所が被告に対し、特別送達で発送したものの、届かないという事態があります。

そのような場合、裁判所は原告に対し、被告の住所などを調査するよう求めてきます。

 

今回のケースでも、そのような問題がありました。

被告は、Aという住所に住んでいたものの、引っ越した。住民票の転出届はなし。
原告は、Aを被告の住所として訴訟提起。特別送達で訴状が届かない。
そこで、原告は、調査報告書を提出。

債権回収会社に委託して所在等の調査を行った。
その内容は、以下のものでした。
債権回収会社の担当者が、二度、Aの住居を訪問したところ、築四〇年ほどの平家建て戸建住宅に表札はなかった。
郵便物もなく、家人の応答はなく、洗濯物は干されておらず、敷地内に車両は駐車されていなかった。
近隣の者二名に被告の居住の有無等を尋ねたところ、被告が単身居住しているが勤務先は分からない旨回答した
との調査結果でした。
ここから、被告がAの住居に居住していることを確認した、と結論付けました。
担当書記官は、これを受けて、訴状などをAに宛てて書留郵便に付して送達するとともに、通知をしたという流れです。

被告は、期日に出席しなかったため、原告の言い分どおりの判決が言い渡されました。
その後、被告は控訴し、適法な送達を受けていないと争いました。

高裁では、被告の主張を認め、原判決を取り消し、原審に差し戻す判断をしました。

 

裁判をやり直すことになったわけです。
訴える側からすると、近所の人がそこに住んでいるという発言をしているにもかかわらず、どこまで調査しなければならないのか、という気持ちにもなりますね。

住民票上の住所にいない人も増えている印象を受けています。
裁判のスタートが、住所への送達という郵便に限られている点は今後変わるのかもしれません。

 

 

仙台高等裁判所秋田支部判決平成29年2月1日
(2) 控訴人の転居等
控訴人は、上記(1)の当時、山形県A市(以下「A市の住居」という。)に居住していたが、平成二七年一二月一三日、東京都B区所在の電気工事の設計・施工・管理等を営む会社に就職し(雇用期間は、当初は平成二八年六月一二日までであったが、その後、期間の定めのない雇用契約となった。)、電工として主に東京都内で稼働をするようになり、これに伴い、A市の住居から、上記会社の寮である東京都B区(以下「B区の住居」という。)に転居し、それ以降、同所で生活し、A市の住居には頻繁に戻ることもなく、現在に至っている。
控訴人は、現在も上記会社に勤務してB区の住居に居住しているが、住居登録上の住所であるA市の住居について、転出を届け出ていない。

(4) 原審における訴訟手続及び送達の経過等
ア 原審で本件を担当した裁判所書記官(以下「担当書記官」という。)は、同月二九日、本件訴状副本及び第一回口頭弁論期日呼出状等を、A市の住居に宛てて特別送達による交付送達を試みたが、上記各書類が保管留置期間経過のため返還され、送達は奏功しなかった。担当書記官は、同年四月一一日、本件訴状副本及び第一回口頭弁論期日呼出状等を、再度、配達日を指定(同月一七日、日曜日等)した特別送達による交付送達を試みたが、上記各書類が保管留置期間経過のため返還され、送達は奏功しなかった。
イ そこで、担当書記官は、同月二六日、被控訴人代理人に対し、控訴人の就業場所及び所在の裏付け調査を行うよう指示した。これを受けて、被控訴人代理人は、債権回収会社に委託して控訴人の所在等の調査を行い、同年五月二四日、その調査結果を記載した上記会社作成の調査報告書を提出した。同調査報告書の内容は、要旨、債権回収会社の担当者が、同月九日及び同月一四日の二度、A市の住居を訪問したところ、築四〇年ほどの平家建て戸建住宅に表札はなく、郵便物もなく、家人の応答はなく、洗濯物は干されておらず、敷地内に車両は駐車されていなかった、近隣の者二名に控訴人の居住の有無等を尋ねたところ、控訴人が単身居住しているが勤務先は分からない旨回答したとの調査結果から、控訴人がA市の住居に居住していることを確認した、というものであった。
ウ 担当書記官は、同月三一日、控訴人に対し、民訴法一〇七条一項一号に基づき、本件訴状副本及び第一回口頭弁論期日呼出状等をA市の住居に宛てて書留郵便に付して送達するとともに、民訴規則四四条の通知をした。
エ 原審は、同年六月二九日、第一回口頭弁論期日を開いた。被控訴人代理人が出頭したが、控訴人は出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかった。そこで、原審は、弁論を終結し、同年七月一三日に判決言渡期日を指定し、被控訴人代理人に告知した。
オ 原審は、同年七月一三日、第二回口頭弁論期日において、控訴人において請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなし、被控訴人の請求を認容する判決(原判決)を言い渡した。

三 検討
(1) 上記認定事実を前提に検討すると、担当書記官が本件訴状副本及び第一回口頭弁論期日呼出状並びに調書判決正本についてした書留郵便に付する送達は、上記各書類の発送時点において、それぞれ被控訴人代理人から提出された資料に基づいて、その要件の具備を検討し、送達の宛先(送達場所)をA市の住居と判断して行われたものと認められるから、担当書記官が上記各書類を発送した時点における措置としては、無理からぬものであり、担当書記官に落ち度があったとはいえない。
(2) しかしながら、書留郵便に付する送達は、その発送時において、その送達場所が受送達者の住居所でなければならず、かつ、その住居所については、受送達者が現にそこに居住又は現在しているなど実体を伴うものであることを要すると解すべきである。
これを本件についてみると、上記認定事実によれば、控訴人は、A市の住居で単身居住していた者であるところ、本件訴え提起前の平成二七年一二月中旬頃、東京都内の会社に就職し、仕事の都合で勤務先の近傍にあるB区の住居に転居して同所での生活を開始し、その後現在に至るまで同所に継続して居住し、A市の住居に頻繁に戻ることはなかったこと、他方、A市の住居は、控訴人の転居後は空き家となり、表札がなく、近隣住民も控訴人の転居の事実を知らないなど、控訴人との平素の人的交流がなかったことが認められ、これらの事実を総合すると、B区の住居に転居した後の遅くとも本件訴え提起時及びそれ以降は、控訴人にはA市の住居での社会生活・地域生活の実体がなかったことが明らかである。そうすると、本件訴え提起時及びそれ以降におけるA市の住居は、もはや実体を伴うものであったとはいえないから、控訴人の住所又は居所であったとは認められず、控訴人の住所は、既に実際に起居して生活の本拠としていたB区の住居にあったと認めるのが相当である。
以上によれば、担当書記官がした本件訴状副本及び第一回口頭弁論期日呼出状並びに調書判決正本の書留郵便に付する送達は、結果的には、発送時において、控訴人の住居所ではない宛先を送達場所として行われたことになり、いずれもその効力を有しないものといわざるを得ない。
(3) これに対し、被控訴人は、①控訴人がA市の住居に住民登録をしたままであること、②郵便物を転送する手続を取っていないこと、③A市の住居において、電気水道の供給を受けて料金を支払っていたことから、控訴人は、A市の住居を生活の本拠としていたものであって、上記各書留郵便に付する送達は有効である旨主張する。
しかしながら、住民登録をした場所が生活の本拠、すなわち住所である蓋然性は高いものの、現実には進学、転勤等に伴う転居後も住民登録を異動していない者が少なからずいることは公知の事実であるから、A市の住居に住民登録が残されているとしても、これにより直ちに同所が控訴人の住所ないし居所であると認められるものではない。また、郵便物の転送手続を取っていないことについても同様である。さらに、電気水道の供給契約についても、必ずしも住所又は居所とする場所についてのみこれらの契約を締結するものとはいえないから、これをもって直ちにA市の住居が住所又は居所であると認める根拠とすることはできない。したがって、被控訴人が指摘する諸点を考慮しても、上記(2)の認定判断を左右するものとはいえない。被控訴人の主張は採用できない。

 

厚木の弁護士事務所 相模川法律事務所

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