弁護士石井です。
審判前の保全処分として子の引渡を求め、家裁は認め、高裁が否定した裁判例の紹介です。
離婚トラブルでは子の引渡問題は非常に多いです。
東京高等裁判所決定平成28年6月10日
事案
母と同居していた家から
父が子2人を連れて家を出て別居
というケース。
母が監護権者の指定、子の引渡を求める審判と、審判前保全処分の申立。
審判前保全処分とは、離婚がらみの審判では結構使われる方法です。
本案の審判をやってると時間がかかるので、保全処分で先に仮の結論をもらおうというもの。
離婚調停中の婚姻費用支払いでよく使われる手続です。
家庭裁判所では、保全処分について、母の申立を認めました。
仮に、子を引き渡すよう認めたわけですね。
これに対して父が即時抗告。
高裁では、父の不服申立てが認められ、保全処分としては子の引渡を否定したという内容です。
保全処分は、仮の判断なので、本案を待っていられないような保全の必要性が認められなければなりません。
「仮」の判断までしなければならない必要性です。
この必要性についても、いくつかの要素で判断するのが通常です。
今回のケースでは、諸要素の判断の一つとして、連れ去りというほどの強引さはなかったという別居に至る経緯の認定がされています。
親族の協力を得て養育していることや、複数の手続きで子供に負担を与えすぎることを懸念して、現状を変えるまでの必要性はないと判断しました。
本案の審判の方で決める方が良いという判断ですね。
抗告人は,平成28年□月□□日(土曜日)午前10時頃に出かけた相手方の帰宅する前,午後5時過ぎに,「お義父さんからの提案について考えましたが,あの場でも申し上げた通り,子供達と少しでも長く,過ごしたいという思いから,離婚を前提として,実家に子供達と帰ります。」などと記載したメモを残して,未成年者らとペットの金魚や飼い猫,未成年者らの日用品を伴って,家を出た。
それ以降,Aと相手方は別居し,未成年者らは,Aが,A住所地において,監護している。エ 抗告人は,平成28年□月□□日,抗告人手続代理人のE弁護士□□□□□□□□□□□□□□立会の下,未成年者らと相手方とを会わせたが,その際,二男が「誰と帰るの?ママと一緒に帰ると,パパと会えないんでしょ?」などと言い,泣き出し,その後,相手方とE弁護士との間でやり取りがされているうちに,抗告人は,未成年者らを連れてその場から立ち去った。
オ 現在の監護状況
抗告人は,平成28年□月□□日,未成年者らと抗告人の住所を抗告人住所地に移した旨の転入の届出をし,同月□□日から近隣の小学校に転校させて通わせ,現在,抗告人住所地のアパートで,未成年者らと3人で生活している。
抗告人は,平日午前9時から午後5時30分まで会社に勤務し,午後6時から7時までの間に退社することが多いため,未成年者らは,下校時,通学路の途中にある抗告人の姉の家で過ごし,抗告人は,仕事が終わり次第,未成年者らを迎えに行っている。キ 抗告人は,平成28年□月□□日,原審判に対する即時抗告をし,併せて,家事事件手続法111条に基づき,原審判の執行の停止の申立てをしたが,東京家庭裁判所は,同日,その申立てを却下した。
ク 相手方は,平成28年□月中旬,原審判の審判書正本に基づいて,未成年者らの引渡しにつき直接強制の執行の申立てをし,執行は着手されたが,執行不能となり終了した。
(2) 審判前の保全処分としての子の引渡命令は,仮の地位を定める仮処分に準じた命令であるから,著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発する(家事事件手続法115条が準用する民事保全法23条2項)ところ,審判前の保全処分としての子の引渡しが命ぜられると,確定を待たずに,強制執行が可能となり(家事事件手続法109条2項),かつ,その方法も直接強制によることが可能と解されることから,子の生育環境に大きな影響を与え,子に精神的苦痛を与える可能性が生じる上,後の裁判において審判前の保全処分と異なる判断がされれば,数次の強制執行により上記の不都合が反復されるおそれがある。すなわち,本件においても,審判前の保全処分の後,本案の審判が予定されており,さらには,本案の審判が確定した後に離婚訴訟が提起され,審判で定められた監護者とは異なる者を親権者と定める判決が言い渡される可能性もある。
そうすると,審判前の保全処分として子の引渡しを命じる場合には,現に子を監護する者が監護に至った原因が強制的な奪取又はそれに準じたものであるかどうか,虐待の防止,生育環境の急激な悪化の回避,その他の子の福祉のために子の引渡しを命ずることが必要であるかどうか,および本案の審判の確定を待つことによって子の福祉に反する事態を招くおそれがあるかどうかについて審理し,これらの事情と子をめぐるその他の事情とを総合的に検討した上で,審判前の保全処分により子の引渡しの強制執行がされてもやむを得ないと考えられるような必要性があることを要するものというべきである。
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