弁護士石井です。
夏季休暇中の2026年8月、弁護士法人の民事再生というニュースが報じられました。
かつて首都圏を中心に多数の支店を展開していた「弁護士法人泉総合法律事務所」を運営していた弁護士法人IZXが、東京地方裁判所から民事再生手続開始決定を受けたというニュースです。
報道によれば、負債総額は約11億円とされています。
弁護士法人泉総合法律事務所は、一時期、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県などに約30拠点を展開する大規模な法律事務所でした。
そして、私たちの事務所がある神奈川県厚木市にも支店がありました。
弁護士法人IZX(旧:弁護士法人泉総合法律事務所)が民事再生
東京商工リサーチの情報を報じたTBS NEWS DIGによると、弁護士法人IZXは2026年7月24日、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請し、同日、民事再生手続開始決定を受けました。
負債総額は約11億円と報じられています。
弁護士法人IZXという名称にはあまり聞き覚えがない方もいるかもしれません。
今回民事再生手続を開始した法人は、以前「弁護士法人泉総合法律事務所」として広く事業を展開していた法人です。
法人は2011年に設立されています。
ピーク時には首都圏約30拠点
弁護士法人泉総合法律事務所の特徴の一つが、多数の支店を展開する経営スタイルでした。
報道によると、ピーク時には首都圏1都3県を中心に約30拠点を展開していたとされています。
一般的な法律事務所の場合、弁護士数名程度で一つの事務所を運営しているケースが多くあります。
これに対して泉総合法律事務所は、東京都内だけでなく、神奈川、千葉、埼玉などにも積極的に支店を開設していました。
神奈川県内にも複数の拠点があり、その一つが厚木支店です。
本厚木駅周辺で営業していたため、厚木や海老名、伊勢原、座間などにお住まいの方の中には、名前を見たことがある方もいるかもしれません。
私たちも厚木で法律事務所を運営しているため、同じ地域にあった法律事務所の民事再生という点で、今回の出来事には特に関心を持っています。
なぜ経営が悪化したのか
東京商工リサーチの報道では、経営悪化の背景についていくつかの事情が指摘されています。
その一つが、同事務所の主要な取扱分野の一つだった「私的整理」の案件減少とのこと。
新型コロナウイルスの感染拡大後、国や自治体による融資、給付金、資金繰り支援などが拡充されました。
その影響などによって、同法人が得意としていた私的整理案件が大幅に減少したと報じられています。
一方で、多数の支店を展開していれば、当然ながら固定費も大きくなります。
各事務所の賃料、弁護士や事務職員の人件費、広告費、システム費用などです。
法律事務所というと、
「大きな設備投資が必要ないので、普通の会社より倒産しにくいのではないか」
と思われるかもしれません。
しかし、多店舗展開を行い、多数の弁護士・スタッフを雇用する事務所では、一般企業と同じように大きな固定費が発生します。
また、弁護士法人泉総合法律事務所は、ネット検索でも上位表示され続けており、SEO対策にそれなりのコストをかけていたものと思われます。
案件数が増加している時期には効率的な経営モデルであっても、相談件数や受任件数が減少した場合、逆に固定費が大きな負担となります。
今回の事例は、法律事務所も当然ながら「経営」を行っている事業体であることを改めて示すものだと思います。
所属弁護士の退所も相次いだと報道
経営状況の悪化に伴い、所属弁護士の退所も相次いだと報じられています。
法律事務所の場合、この問題は一般企業以上に深刻になる場合があります。
弁護士は人件費であると同時に、事件を担当し、売上を生み出す存在でもあります。
そのため、
業績悪化
↓
弁護士が退所
↓
事件処理能力・売上が低下
↓
さらに業績が悪化
という悪循環になる可能性があります。
大規模法律事務所ほど、人員が一気に流出した場合の影響も大きくなります。
1つの支店に1人の弁護士というところでは、弁護士が退所したら支店が維持できなくなりますね。
2025年には弁護士法人心へ大規模な事業譲渡
今回の民事再生を考えるうえで非常に重要なのが、その約1年半前に行われた事業譲渡です。
弁護士法人心は2025年1月7日、弁護士法人泉総合法律事務所から事業譲渡を受けたことを公表しています。
その規模はかなり大きなものでした。
事業譲渡に伴い、
つくば
立川
八王子
町田
厚木
藤沢
大宮
川越
所沢
越谷
海浜幕張
松戸
市川
木更津
などに弁護士法人心の法律事務所が開設されています。
さらに、弁護士法人泉総合法律事務所から弁護士21名が弁護士法人心側に参画したと発表されています。
厚木の拠点もこの事業譲渡の対象となりました。そのまま支店事務所を引き継いだものでしょう。
現在、本厚木駅近くに「弁護士法人心 厚木法律事務所」がありますが、これもこの事業譲渡によって開設された事務所です。
今回の流れを大きく整理すると、
弁護士法人泉総合法律事務所が首都圏に多数の支店を展開
→ 経営環境が悪化
→ 2025年1月に厚木を含む多数の拠点を弁護士法人心へ事業譲渡
→ 旧泉総合法律事務所の法人自体は存続
→ その後、私的整理を模索
→ 2026年7月に民事再生
という経過になります。
「再建型」というより「清算型」の民事再生
通常、「民事再生」という言葉からは、
「借金を減額して会社を立て直す手続」
というイメージを持つ方が多いと思います。
しかし、今回については、報道では「清算型の民事再生」とされています。
すでに主要な事業や人員を別の法律事務所へ譲渡しており、従来の弁護士法人泉総合法律事務所をそのまま再建するというよりも、残った法人の資産・負債関係を民事再生手続の中で整理していくものと考えられます。
報道によると、民事再生申立て前には中小企業活性化協議会を利用した私的整理も模索したとされています。
それでも解決に至らず、最終的に裁判所を利用した民事再生手続に移行したということになります。
約11億円の「負債の中身」はまだよく分からない
私たち弁護士として今回のニュースを見て最も気になるのは、約11億円とされる負債の内容です。
例えば、
金融機関からの借入金なのか、
事務所の賃料等なのか、
広告会社等への未払金なのか、
退職した従業員等に関係する債務なのか、
依頼者に関係する債務が含まれているのか、
といった内訳によって、今回の民事再生の意味は大きく異なります。
現在一般に報道されている情報だけでは、この約11億円の具体的な債権者構成までは分かりません。
今後、再生手続が進み、再生計画案などの内容が明らかになれば、今回の経営破綻の全体像がさらに見えてくるものと思われます。
SNSでは「預り金」をめぐる話も出ているが
今回の民事再生については、X(旧Twitter)などでも弁護士を中心にかなり話題となっています。
中でも注目されているのが「依頼者からの預り金」の問題です。
債務整理を多く扱う法律事務所では、任意整理後の返済について、
依頼者
↓
法律事務所
↓
各消費者金融・カード会社
という形で、法律事務所が毎月の返済を代行することがあります。
この場合、法律事務所の口座には一時的に多額の依頼者資金が存在する可能性があります。
当然ながら、このような預り金は法律事務所の売上ではありません。
今回の民事再生を受け、SNS上ではこの預り金と事務所経営との関係について様々な投稿がされています。
中には、
「依頼者から預かった返済資金を事務所の資金繰りに利用していたのではないか」
といった内容の投稿も見受けられます。
しかし、この点については注意が必要です。
現在、確認できる東京商工リサーチ等の報道において、弁護士法人泉総合法律事務所が依頼者の預り金を運転資金として使用していたという事実は確認できません。
SNS上でも、この情報の出所について疑問を呈する弁護士の投稿がされています。
したがって現時点では、
「SNS上でそのような話が出ている」
という以上のものではなく、事実として扱うべきではないと考えます。
もし、実際に預り金の不足や流用などがあれば、三の丸法律事務所のように極めて重大な問題になるでしょう。
ただ、事業譲渡もされてそれなりの期間が過ぎていますし、現時点で弁護士会からも動きがないので、おそらくそういう話ではないのではないかと推測します。
弁護士法人ではない泉総合法律事務所のウェブサイトはありますので、法人の代表だった泉先生が個人事業として経営しているものと思われます。預り金関係の問題があると、このような活動はなかなか難しいんじゃないかというのも、上記推測の理由です。
法律事務所が民事再生すると依頼者はどうなるのか
一般の方にとって一番気になるのは、
「依頼していた法律事務所が倒産したら、自分の事件はどうなるのか」
ということでしょう。
法律事務所が民事再生をしたからといって、依頼者が抱えている裁判や借金自体がなくなるわけではありません。
事件の進行状況によっては、別の弁護士への引継ぎが必要になります。
また、
着手金等を先払いしている場合、
相手方から受領した示談金などを預けている場合、
任意整理の返済資金を法律事務所に預けている場合、
などには、金銭関係を確認する必要があります。
今回の弁護士法人泉総合法律事務所については、大部分の事業が2025年に別の弁護士法人へ譲渡されているため、すべての依頼者が今回の民事再生によって直接影響を受けるとは限りません。
この点についても、今後明らかになる情報を慎重に確認する必要があります。
厚木の法律事務所として考えさせられること
弁護士法人泉総合法律事務所は、一時期、厚木にも事務所を構えていました。
ジン法律事務所弁護士法人も同じ厚木市内で弁護士業務を行っています。
事業譲渡もあったので、気づいたら事務所名が変わっていた程度の認識でしたが、今回のニュースを見て、そんな裏事情があったとは、と驚きました。
個人的には、これからの時代、固定費をかけて大規模展開はリスクが高く、経費削減方向に進むよなぁと感じています。
多数の支店を持つ全国型・広域型の法律事務所はすごいと思います。


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